「すごいインド」-なぜグローバル人材が輩出するのか-サンジーヴ・スインハ著 2019年4月12日 吉澤有介

新潮新書2014年9月刊 著者は、インド工科大学(IIT)カンブール校で物理学を学び、人工知能研究開発のために96年に来日、証券会社などを経てコンサルタントとして独立しました。日本人のインドに対する関心を高め、日本とインドが、お互いにウイン・ウインの関係を築けるよう、さまざまな活動を行っています。

インドは、12,5憶の人口を抱え、現在は中国に次ぐ人口第二の国ですが、2021年には中国を抜いて世界一になると予想されています。GDPでも近い将来、日本を抜くことでしょう。しかしそんな大国なのに、インドのことは、日本ではまだよく知られていません。

インドは、この20年で劇的に変化しました。きっかけは、90年代に入って始まった経済自由化と、IT産業の発展でした。以前は世界の最貧国とみられていたのに短期間で「IT大国」として知られるようになったのです。2014年には、マイクロソフトのCEOにインド人が選ばれました。シリコンバレーには多くのインド人が活躍しています。その先駆者のレキ氏は、IITを出て60年代後半にアメリカに渡りました。ミシガン工科大学でコンピュータを学び、ベンチャーを創業して億万長者になりました。在外インド人は、インドにこだわりません。国際的な環境で、「個人」としての力を発揮する「グローバル人材」なのです。

英語が得意なのも大きな強みでした。インドではヒンデイー語に続く第二公用語ですが、富裕層の子弟は私立の小学校から英語を学びます。とくに理系の大学は英語で授業しています。大手企業もすべて英語です。英語によって貧困からの脱出の道が開けたのです。

インドには複雑な歴史がありました。宗教ではヒンドウー教が人口の8割、イスラム教が13%です。仏教はヒンドウー教に含まれ、ともに自由で幅が広く、日本の神道に似ています。「カースト制度」は、田舎の古いインドには残っていますが、都会の新しいインドでは意識が薄くなっています。初等教育の普及が静かな革命を起こしました。しかしカリキュラムはバラバラで、5-5-3制としているだけです。それでも数学の伝統がありました。紀元前から伝わる暗算法「ヴェーダ数学」です。習得すれば2桁の暗算が簡単にできるのです。子供たちは、クイズの感覚で競います。著者も九九の暗算は14まででしたが、理系でずいぶん役立ちました。IITは、インドでは突出した大学です。優秀なエリートが集まりました。

アメリカのIT企業がインドに注目した理由は、英語と数学でした。「2000年問題」が契機になったのです。ITはインド人の相性にぴったりでした。インドはこれまで世界的にも「汚職天国」の悪名がありました。古いインドでは、政府も経済界も汚職にまみれていたのです。ところがITは、利権や癒着の及ばない全く新しい産業でした。政府にはITを規制するだけの知識がありませんでした。ITがインドに革命的な変化をもたらしたのです。

日本の企業にとっても、インドは大きな可能性を秘めた市場です。格差社会とはいえ、急増しつつある中間層がいます。インドで最も成功した日本企業は「スズキ」です。オーナーの鈴木修氏の即断即決が、インド経済界の信頼を得たのです。しかし現在、中国が大きく存在感を増しています。著者は、日本の良さをインドに伝えたいと切に願っています。「了」

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