「神楽」—神々をもてなす技芸—2025年⒓月20日 吉澤有介

神崎宜武著、角川選書、令和7年11月刊  著者は、1944年岡山県生まれ。岡山県宇佐八幡神社宮司。民俗学者。著書は、「社をもたない神々」「旅する神々」「まぐわう神々」(いずれも角川選書)、「酒の日本文化」「しきたりの日本文化」「おじぎの日本文化」(いずれも角川ソフィア文庫)、「江戸の旅文化」(岩波新書)、「神主とムラの民俗誌」(講談社学術文庫)などがあります。
神楽は、全国各地にあります。それぞれの地方で〇〇神楽と呼ばれて、その総数は700件を超えるでしょう。国の重要無形文化財だけで40件もあります。主に神社の祭礼で催され、宮中の「御神楽」と区別して、民間は「里神楽」と総称されています。
里神楽は、御神楽の影響を殆ど受けていません。本書はその里神楽を論じています。
神楽(かぐら)とは、神の座す神坐(かみくら)を清め、神霊を勧請して、「五穀豊穣」や「家内安全」などの祈願をこめて、呪術者の巫女が「おこない」を演じることで、古くからさまざまに演じられてきました。古事記にある、天の岩戸で行われたアメノウズメノミコトの舞は、その祖型の一つです。男の呪術者も生まれていました。
今日の神楽は、巫女神楽、出雲流神楽、伊勢流神楽、獅子神楽などに分類されますが、演者からみると巫女の他に、山伏による修験系、芸能化した太夫系があります。
巫女神楽の最も古い形が、京都の大田神社に伝承されています。祭神はアメノウズメノミコト。拝殿の「神懸りの間」に直径2尺の藁の円座を設け、その上で巫女が、左に三回、右に三回、また左に三回、鈴を振りながら回って舞います。奉仕する巫女は土着の刀禰一族、太鼓や鉦などの囃子方は神楽講の男性が代々勤めています。春日大社にも、独自の巫女神楽があり、若宮大祭では、8人の巫女が扇と鈴で舞います。
岡山には多くの巫女神楽があります。備中の社家に生まれた著者は、小学生の頃から祖父に伝授されました。それは巫女系とともに律令で制定された、男性によるカンナギ系の古い座神楽でした。祖父は、民俗学者の宮本常一とも交流していました。
岩手の早池峰神楽は、修験・山伏系です。麓の集落で、獅子舞を含むさまざまな舞曲を今に伝えています。早池峰神社の神楽ですが、早池峰山そのものが御神体でした。鳥舞いに始まり、40曲を舞い、9時間後に勇壮な権現舞いでしめくくります。
長野県南信濃の遠山郷には、霜月祭の湯立神楽が伝えられています。舞殿に設けた竈の前で、仮面をつけた氏子たちが舞い踊ります。竈の湯を掛け合って身を清め、五穀豊穣と村里の平和を祈願するのです。清和天皇の貞観年間の宮中行事を模したといい、全国六十余州の神々を招いての、古式豊かな神楽として知られています。
日向(宮崎県)は、日本一の神楽どころで、200を超える保存団体があり、高千穂系、椎葉系、霧島系などが、アミニズムの伝統を色濃く伝えていました。また伊勢大神楽は桑名の増田神社が本拠で、獅子舞を中心に、各地の神社を巡業しています。
著者は、小沢昭一とも親しく、神楽についての造詣の深さに敬服していました。「了」

カテゴリー: サロンの話題 タグ: , , パーマリンク