「オーラル・ヒストリー入門」 2025年11月28日 吉澤有介

佐藤 信編、ちくま新書、2025年10月刊  編著者は、1988年生まれ、東京都立大学法学部法学科准教授。現代日本政治、日本政治外交史が専門です。著書に「近代日本の政治と空間」(東京大学出版会)、「日本婚活思想史序説」(東洋経済新報社)、「60年代のリアル」(ミネルヴァ書房)などがあります。京都大学の朴沙羅准教授らと「インターネット時代のオーラル・ヒストリー研究会」を立ち上げました。本書にはその研究会のメンバー7人が執筆しています。
人の口から語られた歴史、すなわち「口述歴史」のことを、「オーラル・ヒストリー」(以下OH)といいます。そこで語られるのは、政府や歴史学者などの公式・学術的見解ではない、話し手それぞれが、語り遺す歴史なのです。話し手や聞き手がどんな人なのか、またその内容も問いません。話し手と聞き手のやり取りも大切で、OHは実に多様です。しかし、一般のインタビューや、ヒアリングとは、性格に違いがありました。それらには個別の目的がありますが、OHには次の共通点がありました。
①話し手の口述であること つまり必ず聞き手が存在します。遠隔もあります。
②記憶を共有可能にすること 口述が歴史である以上、それは必ず記録されます。
③話し手が歴史的事実を語り遺そうとしていること 聞き手がそれを促すのです。
貴重な機会を捉えてOHを実践するのは、そう簡単なことではありません。
その基本的な流れは、まずチームをつくり企画する→話し手の情報を集める→日程や場所を準備して話し手と出会う→聞き取り、記録し整理する→内容を確認し、社会的な意味を考えて解釈する→話し手に確認してもらう→記録を保管して共有し、公開可能にする→第三者も含めてあらためて吟味する→作品として冊子にする、あるいは研究の材料としてまとめる となります。本書には、その具体例が多数示されていました。
チームをつくることは、多様な話題を引き出すことに役立ちます。例えば「わが記録—-堤清二*辻井喬オーラル・ヒストリー」では、経済に橋本寿郎、政治に御厨貴、文化には鷲田清一の各専門家が聞き手を務めていました。それぞれに信頼関係があってのことでした。また聞き取りに際しては、話し手の身振り手振りも、貴重な情報になります。僅かの動作でも見落とさないためにも、複数のメンバーは有効なのです。
質問するにも大切なことがあります。それは決して誘導しないことです。誘導を避けるためには、オープン・クエスチョンがお薦めです。「はい」、「いいえ」ではなく、「○○について教えてください」のように、自由に回答してもらうのです。よくわからないときには、恥ずかしがらずに重ねて聞きましょう。貴重な機会だからです。
日本の社会学の伝記的研究は農村を対象とした社会調査から始まりました。地域の古老から聞くライフ・ヒストリーは、個人の体験から、社会とその変化を捉える基本的な研究手法として今日に至っています。話し手に出会うには、OHの意義を理解したキーパーソンも欠かせません。本書の具体的指針は、まことに実践的でした。「了」

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