全文完全対照版「菜根譚」2025年1月31日 吉澤有介

野中根太郎訳、誠文堂新光社、2020年1月刊  本書の原著者は、明の「洪自誠」です。訳者は、早稲田大学卒、海外ビジネスのあと、翻訳・出版・企画に転じました。日本や日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されたことから、日本人に影響を与えた古典を深堀りして、翻訳・出版を重ねてきました。完全対照版シリーズとして、「論語」、「孫子」、「老子」(誠文堂新光社)などがあります。
「菜根譚」は、不思議な一書でした。中国明代末期(1600年ころ)に出た古典でありながら、本国の中国ではほとんど読まれず、日本で絶大に支持されてきました。原著者の洪自誠は、明の高級官僚で、後に政争に敗れて隠棲したようですが、この「菜根譚」は、まるで現代に生きているように、私たちの人生に適確な指針を与えています。熱心な読者には、新渡戸稲造、五島慶太、田中角栄、吉川英治、松下幸之助、川上哲治、野村克也などがいて、それぞれが本を出し、書誌学の谷沢永一は、世界の傑作と称えていました。
本書は、儒教・仏教・道教を融合して、簡潔に述べています。その一端を挙げましょう。
・正しい生き方をする者は永遠の価値を得る ・純朴で愚直な生き方が良い ・才能は自慢したり、ひけらかしてはならない ・辛いことがないと人は成長しない ・うまくいかない後に物事は好転する ・人に役立つ生き方ができれば最高 ・本物は目立たない ・自分に厳しくあれ ・情けは人のためならず ・良いとこ取りばかりをしない ・日常の家庭生活が一番の修行の場 ・他人への忠告はよく考えてから ・光明は暗闇から生まれてくる ・功成り名を遂げたらさっと退く ・何事もほどほどが良い ・人より一歩高く努力し、一歩退いて生きる ・平穏無事な日常が一番の幸せ ・足るを知る者は富む ・世の中に役に立たない事業は結局成功しない ・自分のためだけに生きる人間に価値はない ・いっぱいでないから倒れない、完全でないから余裕がある ・心が正しく澄みきっていて輝いていれば、恐れるものはない ・逆境は試練と、前向きにとらえよ ・心の温かく親切な人が幸せになる ・欲望の道は、もがき苦しむことになる ・苦心を重ねて考え抜いた知識、知恵が本物なのだ ・清濁併せ飲む度量を持て ・過ぎ去ったことには執着しない ・問題は小さいうちに気づけば、良い方向に変えられる ・恩と仇は水に流す ・反省する人は伸びる ・人間に大切なものは中身だ ・和して同ぜず ・他人の責任を追及するときは、同時に良い点も指摘し、自分の不明を反省する ・人生は夢のようなものだ ・この世にあるすべてのものから宇宙の真理を学べ ・自然のなかで風流に生きる ・自然は人生を教えてくれる ・心の持ち方で感じ方も変わる ・あくせくしないで生きよ ・今いる日常環境のなかに喜びを身出す ・春も良いが、秋はさらに良い ・流れにまかせ、運命にはさからわない ・自然にかえるのが理想の姿だ ・仮の自分は、真の自分ではない ・視点を変えて自分を見つめ直す ・天地自然は最高の芸術だ
「菜根譚」には、箴言が満載されていました。著者の詳細な解説によると、その内容はまさに日本人のために書かれたかのようです。秀吉や家康の時代に書かれた明の古典ですが、多くの日本人に愛されました。でもあまりにも立派で、耳が痛かったですね。「了」

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