「ヘビ学」—毒・鱗・脱皮・動きの秘密—2025年1月18日 吉澤有介

ジャパン・スネークセンター編、小学館新書、2024年⒓月刊  本書は、一般財団法人「日本蛇族学術研究所」(蛇研)が運営する、ヘビ専門の動物園・研究施設の気鋭の研究者(堺淳、森口一、高木優、吉村憲)の4氏が執筆しました。
日本唯一のこの施設は、1965年設立、群馬県太田市にあって、国内外の蛇を多数飼育し、常時200匹を展示しながら、ヘビ毒の解明、毒蛇咬傷対応などの活動をしています。
ヘビという生き物は、一般に「嫌われ者」で、多くの人が蛇を凶暴で攻撃的というイメージで怖れています。しかし、殆どのヘビは、「神経質」で、「臆病」な生き物でした。
とりわけ人間が怖い。その性質が過剰のために、激しく攻撃します。オオアナコンダや、アミメニシキヘビなどの超大蛇は、ときにはヒトをも捕食しますが、これは例外で、毒ヘビの代表であるキングコブラでさえも、自分よりも巨大なヒトを恐れているのです。
日本には、43種のヘビが生息していますが、世界では、約4100種が確認されています。そのうちの2000種以上が「ナミヘビ科」で、体長は数十センチから3mのものもいます。大型の代表はアオダイショウで、哺乳類や鳥類までも捕食します。中型のヤマカガシは両生類や魚類を食べ、シマヘビはカエルを食べます。次に多いのが「クサリヘビ科」で、「マムシ亜科」と「くさりヘビ亜科」に分かれ、鼻と眼の間にある「ピット器官」で、熱や赤外線を感知するのが特徴です。すべてが毒と毒牙を持ち、待ち伏せして獲物を感知すると飛びかかります。ガラガラヘビもこの仲間です。「ニシキヘビ科」と「ボア科」は、ともに大型で9mにも達します、前者は卵生が多く、世界各地に分布しますが、アメリカ大陸にはいません。後者にはアナコンダなどがいて、主に胎生で、アメリカ大陸に生息しています。「コブラ科」は、「コブラ亜科」と海棲の「ウミヘビ亜科」に大別され、それぞれに約200種がいます。コブラでは頸の後ろのフードを広げるキングコブラが有名です。
ヘビ類は、トカゲ類から白亜紀に分化しました。脚がなくて胴が長い、地上、地中、水棲、樹上と、さまざまな環境に適応して、生息域を拡げてきました。眼に瞼がなく、代わりの膜があって、眼球を保護します。耳がなくて、音は聞こえません。下顎の骨が左右独立なので、大きな獲物も丸呑みします。胃には柔軟性があり、すべてを消化して栄養にします。鱗も大きな特徴で、凹凸をうまく捉えて前進します。胴体の後部に排泄、生殖、産卵を兼ねた「総排出口」があり、その先が尻尾です。オスの生殖器は、この総排出口に隠れているので、外見では雌雄がわかりません。嗅覚で相手を見つけるのです。
ヘビの基本態勢は静止です。とぐろは「臨戦」と「休息」を兼ね、攻撃範囲に侵入すると噛みつきます。その距離はほぼ全長の半分で、マムシなら30㎝離れたら安全でしょう。
本書では、ヘビ毒とその対応について詳細に解説しています。咬傷の場合には、相手の見分けが困難で、痛みがなくても一刻も早い専門的な治療を要します。飼育にも特別な注意が必要なのです。ヘビと人間には、エデンの園以来の長い歴史がありました。ヘビはまた、医療の象徴とされていました。WHOや日本医師会のマークに描かれています。「了」

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