「互恵で栄える生物界」—利己主義と競争の進化論を超えて-2024年12月12日 吉澤有介

クリステイン・オールソン著、西田美緒子訳、築地書館、2024年10月刊 著者は、オレゴン州在住のジャーナリスト、作家です。土壌微生物と植物との共生関係から農業・牧畜の将来を鮮やかに描いた著書「The Sell Will Save Us」(2014年)で注目されました。訳者は、津田塾大学英文科卒、自然・科学の多数の訳書があります。
C・ダーウィンは、現在生きているあらゆる生き物は、資源を巡って厳しい競争を勝ち抜いて、繁殖に成功してきたという「進化論」を打ち立てました。それ故に多くの生態学者は、進化は利己的な「生存競争」と「適者生存」によって進んだと思い込んでいます。しかし、これでは自然の持っている大切な機能を、見逃しているのではないでしょうか。
私たちは、周囲の自然との創造的で活気ある関係に、支えられて生きています。地球上のすべての生物は、互いに助け合いながら栄えてきたのです。近年、生態学者たちも、この協力関係に注目しはじめました。著者はワクワクしながら、その動きを記しています。
北米では、林業者たちがこれまでの天然の針葉樹と広葉樹の混交林を皆伐して、一様の針葉樹の植林にしていました。生産性向上を狙ったのです。ところが森の状態は、見るからに不健全になり、毎年のようにキクイムシなどが大発生するようになりました。皆伐後の植林と植生回復でも、邪魔な広葉樹を取り除いたら、針葉樹が枯れはじめたのです。
森林生態学者は、広葉樹の在来種の存在が、針葉樹の成長を促進していたことに気づきました。隣り合ったベイマツとカバノキの若木に、炭素の放射性同位体を注入して、菌根菌の炭素燃料が、季節による日当たりの増減で、相互に移動していることを突き止めたのです。樹木が地下で互いに助け合っている、菌根菌のネットワークでした。彼女らは、さらにマザーツリーが、森林の再生に大きく関与しているとして、「マザーツリー・プロジェクト」で、ベイマツのみが植林された森林を、従来の皆伐と、樹齢の長い木(マザーツリー)をさまざまな間隔で保存する保残伐の方法を、比較する実験を開始しました。数年か数十年にわたって、森林の再生、生産力、土壌炭素、回復力を評価する計画です。
また森の窒素の循環には、毎年、産卵のために河川を遡上する、無数のサーモンの恵みがありました。定期的に内陸の動物たちに食べられて、大量の栄養分を、森にもたらしています。窒素は動物たちのタンパク質を構成し、植物には葉緑素の主成分になるのです。
森の樹木に窒素を供給するもう一つの関係がありました。ポプラの幹から流れ出る「ネバネバした細菌が、DNA配列で「根粒菌」とわかりました、根粒菌は窒素固定作用をします。塩分耐性をも高めていました。微生物が植物の生活と生長を助けていたのです。
進化は、競争と利己主義で進むという説は、1960年代に、微小生態系学者マーギュリスによって刷新されました。細菌が互いに影響し助け合って、真核細胞の生物が生まれ、共生関係を形成して多細胞生物になり、その中で運の良いものが生き残ったという「緩和選択」説です。すべての生き物は、微生物叢の宿主でした。著者は、これまで人間が収奪してきた自然を、微生物の助けを借りる相利共生の生物界再生を強く願っています。「了」

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