「人も鳥も好きと嫌いでできている」—インコ学概論–  2024年11月22日 吉澤有介

細川博昭著、イラストものゆう、2024年8月刊  著者は、サイエンス・ライターで、鳥を中心に、歴史と科学からみた人間と動物の関係を執筆。主な著書に「鳥を識る」、「鳥と人、交わりの分化誌」、「鳥を読む」(春秋社)、「知っているようで知らない鳥の話」、「鳥の魅力を探る」(SBクリエイテブ)、「江戸の鳥類図鑑」(秀和システム)、「長生きする鳥の育て方」(成文堂新広社)などがあります。
赤ちゃんが生まれてすぐ感じるのが、生理的の「快」と「不快」です。やがて「心地よい・好き」と「不快・嫌い」を経て、直観と経験から「好き」「嫌い」の組み合わせによって「心」が、かたちづくられてゆきます。一方で、人には生来の「気質」があります。活動的か、おびえやすいか、飽きやすいなどの「気質」が加わって、個性が生じます。
鳥も同じで、「好き、嫌い」があり、「気質」も重なってそれぞれに個性があります。
野鳥では、わかりにくい個性ですが、インコやオウムを飼育していると、それがよくわかります。インコやオウムは、カラスと並んでとくに腦が発達していて、哺乳類の霊長類に相当するとみられています。著者は「発達心理学」をもとに、その「心」に迫りました。
著者のオウムは、掻いてほしい、なでて欲しいと、頭を押し付けてきます。心地よさを求めてくるのです。これはカラスの飼育実験でも報告され、軟体動物のタコでも注目されています。タコは周囲の人間を見分け、好き・嫌いの表情を見せていました。動物にも感情があることは、広く認められています。心のありかたは、遺伝子の近い類人猿と人間だけが似ているとは限りません。鳥のほうが、人間に近いと感じることさえあるのです。
鳥を識ることで人間を理解する手がかりは、人間の「発達心理学」にありました。インコは成長が速いので、数週間も観察すれば、認識や学習能力発達の経緯がわかるのです
インコは感情を隠しません。「好き・嫌い」に「無関心」があって、「好き」で幸福感に浸ると、腦内に人間の愛情ホルモンの「オキシトシン」に近い「メソトシン」が分泌されます。オスとメスの求愛行動でも、好きな人間との交流でも、分泌することが確認されました。「好き・嫌い」には、成長にともなって判断が高度化し、価値観が加わります。
インコやオウムは、鳴禽でないので囀りをしません。その代わりに極めて高い「言葉」の学習能力があります。言葉を覚えるときには、キーや音色も含めて正確に記憶します。男性と女性の声の高さも再現するのです。口笛を真似て歌い、自分でアレンジして勝手に歌うインコもいました。これは論文になっています。リズムに合わせて踊るインコや、鍋などの金属を嘴で叩いて音を出す、「ノッキング」を楽しむオウムもいるそうです。
インコやオウムは、人間が思っている以上に、人間をよく観察しています。家族全員が鳥好きでも、鳥の心の中には、「好き」に順番があるのです。放鳥すると、一番好きな人のところに行きます。その人が不在だと2番目、さらに3番目も決めていました。その理由は、容姿よりも雰囲気や心の内面にあるらしく、ひと目惚れのこともありました。
恐怖の感情は本能的で、インコは暗闇を怖がります。「嫌い」を避けながら、旺盛な好奇心で、新しい「好き」を求め、幸福感に満ちた姿は、人間に重なって見えるのです。「了」

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