樋口大良著、ヤマケイ文庫、2024年9月刊 著者は、鈴鹿山麓の農家に生まれ、京都教育大学卒、小学校教師として、子どもたちが主体的に発動する授業の研究に取り組み、「一人歩きの理科学習」を提唱しました。2007年に定年退職すると、子どもたちが自然と親しむことを目指す「子どもヤマビル研究会」(通称ヒル研)を創設、近隣の小中学生を集めて、ヤマビルの生態研究を行っています。
著者は2000年ころから、学校が主催する自然体験学習の指導員を依頼されました。小学5年生を、四日市少年自然の家で一泊二日のプログラムの自然観察のウオークラリーを行いましたが、子どもたちは山にはヒルがいると言って、自然の中に入ろうとしません。血を吸われて、血だらけになるからです。困った著者は、ヤマビルを捕らえてビンに入れ、その動きを見せると、子どもたちの眼が輝きました。ヒルは絶好の教材になる!
ヒル研を開講して、近隣の小学校にチラシを配ると、小中学生が集まってきました。他にヤマビルの研究者はいません。日本で唯一の研究会で、全員が研究者になったのです。俄然元気が湧いてきました。四日市にヒルの忌避剤を開発した企業があると知り、子どもたちは防衛体制を整えて、初夏の山に分け入ってゆきました。手探りで居場所を見つけてヒルを探し、ビンに入れます。ヤマビルは約3㎝の大きさで、頭と尻に吸盤を持ち、シャクトリムシのように動きます。頭の方が細く、腹が太い。頭の先に口があり、動物の身体に吸い付くと傷を付けて、滲み出た血を吸います。血が固まらないようにヒルジンという物質を出して2時間ほど吸い、満腹して丸く膨らむと自然に落ちますが、出血は止まりません。ヒルジンには麻酔作用があって、吸われても気が付かないので、実に厄介です。
これは、専門書も読み込んだ子ども研究員の解説でした。彼らはヒル捕りの名人になりました。山の現場や室内実験で、観察と記録に熱中します。ヒルは何に反応して、人に吸いつくのか。ビンの中で、ヒルは人の体温の温度に強く反応し、呼気を吹きかけると猛烈に動きます。二酸化炭素を2,5mの距離から、敏感に検知することを確認しました。
ヒルは、山道の木の上から落ちて、人に取り付くと言われています。泉鏡花の小説「高野聖」にも、木の上から、ポタポタと落ちてきたとありました。そこで研究員は実験で確かめることにしました。ヒルの多い林道にブルーシートを敷いて、周囲に忌避剤を撒き、地面からのヒルの侵入を防いで、シートの真ん中に中学生が座りました。トランプしたり歌を歌って3時間経過しましたが、ヒルは全く落ちてきません。落ちてきたのは木の実や小枝だけです。一方、隣の地面に、長靴と衣服の防備を固めた5年生が座ると、すぐに足元からヒルが取り付いて、僅か2分で首筋まで上がってきました。そのスピードの速いこと。蒸し暑い中で、実験を繰り返しても、同じ結果でした。大発見です。木の上は日光と風で乾燥しやすく、樹幹を登るヒルはいないのです。名古屋市で毎夏開かれる夏山フェスタにブースを出して展示し、子ども研究員が解説すると、周囲は大騒ぎになりました。
子ども研究員は、さらにヒルの解剖にも挑戦しました。雌雄同体の環形動物の秘密を次々に解明し、世界で初めて産卵動画の撮影に成功しています。ヒル研は凄い。「了」
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