「動物たちは何をしゃべっているのか」2024年7月14日 吉澤有介

山極寿一、鈴木俊貴共著、集英社、2023年8月刊 本書は、鳥になった研究者と、ゴリラになった研究者の対談集です。鳥になったのは、鈴木俊貴さんで、1983年練馬区生まれ、立教大学で博士号を取得後、日本学術振興会、東京大学、京都大学を経て、東京大学先端科学技術センター准教授になりました。専門は、シジュウカラ科に属する鳥類の行動研究で、多数の受賞歴があります。ゴリラになったのは、著名なゴリラ博士の山極寿一さんです。アフリカ各地でゴリラと共に暮らし、初期人類の社会生活を復元しました。京都大学教授、理学部長、総長を歴任し、現在は総合地球環境学研究所長です。著書には「家族進化論」(東京大学出版会)など、多数があります。
対談は、シジュウカラの世界と、ゴリラの世界を共有することから始まりました。お互いにそれぞれの動物に触れ合ううちに、言語の起源に興味を持っていたのです。鈴木さんは、高校生のころから野鳥観察に嵌っていましたが、ある日、長野県の森で、シジュウカラ の鳴き声が、とても多様なことに気づきました。シジュウカラは小さい鳥ですから、ヘビやタカなどの天敵を警戒します。それも天敵の種類を区別していました。ヘビなら「ジャージャー」、タカなら「ヒヒヒ」と鳴いて仲間に知らせます。それによって対処法を変えていたのです。鳥は視覚に優れていますが、シジュウカラは鬱蒼とした森に棲んでいるので、視覚だけでは不安で、鳴き声を言語として発達させたのでしょう。
またシジュウカラは文法を持っていました。「ピーツピ・ジジジ」は、「警戒して集まれ」ですが、この順序を逆にしてスピーカーで聴かせると、全く反応しませんでした。鈴木さんは、さまざまな組み合わせで実験し、文法を確信します。大きな発見でした。
山極さんはルアンダで、タイタスという6才のゴリラの男の子と2年間、抱き合いながら暮らしました。ゴリラは私たちのように饒舌には話せませんが、頭の中では複雑な思考が入っています。内戦が終わったルワンダを再訪したのは、26年後のことでした。タイタスは34才で、群のリーダーになっていました。はじめは無視されましたが、2日後に、急に思い出して近寄ってきて、子どものようにじゃれてきました。記憶が戻ったのです。
サルや類人猿では、言語の発達以前に、まず視覚的なコミュニケーションがありました。動物たちは踊り、歌います。ゴリラは食べ物にありつくと、「ウグーム、ウグーム」と鳴き、近くの連中も、一斉に同じ声を出します。体が共鳴し、コーラスが生まれました。
鈴木さんは、鳥にも高度な意図を感じることがあります。シジュウカラは、大きな鳥と混群をつくると、エサを巡って不利になります。そこでシジュウカラはウソをつくのです。「タカが来たぞ!」と鳴いて、他の鳥が驚いて逃げると、そのスキにエサを取ってしまいます。山極さんは霊長類で、同じような観察をしていました。騙しのテクニックです。
一方、霊長類には、子どもなどが危ない行動をしたときに「支えてあげる」ことがあります。他者の能力をよく理解して共感しているからです。ムクドリなどが公園の大樹で、大声で鳴き交わすことがありますが、あれも歌っているらしい。同調して共感と興奮を深めているのです。警戒穏を出して群に知らせるのも、利他的な行動の一つでした。「了」

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