おもしろくてためになる「鳥の教科書」 2024年5月8日 吉澤有介

山階鳥類研究所著、ヤマケイ文庫、2023年10月刊
千葉県我孫子市にある当研究所は、1932年に山階宮芳麿博士が私財を投じて創設されました。鳥類の標本約8万点、図書・資料約7万点を所蔵し、現在は秋篠宮が総裁です。
鳥とはどんな動物でしょうか。本書は日本唯一の鳥類研究所のメンバーが、約80項目にわたって、わかりやすく解説しています。そのうちのいくつかを拾ってみましょう。
鳥は恐竜の直系の子孫であることは、現在すでに定説になっています。化石の研究によれば、現代の鳥と基本的に同じ構造で飛翔能力ある鳥は、始祖鳥が繁栄したジュラ紀から白亜紀にかけての約一億年前に出現していました。現代と同じ科に属する鳥でみても、今から約6500万年前には登場していたようです。現在、鳥の約60%を占めるスズメ目も、4000万年前には出現し、その後爆発的に種が分かれて進化してゆきました。
1万種以上もいる中で最も重い鳥は、飛べないダチョウで約150㎏、軽い鳥はハチドリで、約2gです。日本に渡ってくるオオハクチョウは13~⒕㎏で、かなり重い方です。翼を広げた大きさでは、ワタリアホウドリの350㎝が最大です。卵の大きさでは、やはりダチョウの16×13㎝が最大で、コビトハチドリは最小の長径1㎝しかありません。
アネハヅルは、高度8000mのヒマラヤの峰を超えています。人間なら酸素ボンベが必要な高度です。日本の登山隊が気づいて、野鳥の会が確認しました。そのわけは、肺の仕組みにあり、空気の出入口が別で、気嚢の働きで効率良く呼吸できるとわかりました。

オシドリのつがいは本当に仲が良いのでしょうか。鳥は90%の種が一夫一妻です。(哺乳類の多くは一夫多妻)。でも多くの鳥が一生を通じてのつがいでなく、浮気をしていることがわかりました。オシドリもオスは子育てせず、どこかへ行ってしまいます。高山に棲むイワヒバリは、複数の雌雄が共同で繁殖します。メスが積極的で乱婚していました。
鳥は同種内で殺し合いもします。ヒメアマツバメは、建物のひさしの下に巣づくりして繁殖します。しかしそれには手間がかかるので、隣の巣を乗っ取ることがあるのです。そのとき前の所有者のヒナや卵を殺して、その所有者の異性とつがって繁殖します。ほかにも例があり、動物は「種の繁栄」でなく、「自分の遺伝子」を残すように行動するのです。
スズメはどのくらい旅をするのでしょうか。新潟市の近郊に福島潟という湿地帯があります。当研究所ではここで標識調査をしていますが、スズメたちは新潟から岐阜、静岡、愛知などに、300㎞も移動していました。とくに幼鳥が多く、冒険旅行をしていました。これには子孫を残すという重要な意味があったのです。新天地を求めた旅でした。
夏から秋にかけて、大都市近郊の住宅地に多数のムクドリが集まって、騒音や糞で問題になっていますが、集団のねぐらは安全のためでした。彼らには良い環境なのですね。
カワセミは、青や緑に輝く背と、オレンジ色の腹で、「飛ぶ宝石」とも呼ばれています。かっては東京都内の水辺でも良く見られましたが、1960年代に急速に姿を消していました。しかし1970年代から都区内にも戻ってきたことが確認されました。皇居でも繁殖しています。カワセミの羽の輝くような青色は構造色です。自然のなせる業でした。「了」

カテゴリー: サロンの話題 タグ: , , パーマリンク