「アンモナイト学入門」—殻の形から読み解く進化と生態–2024年4月16日 吉澤有介

相場大祐著、誠文堂新光社、2024年2月刊    著者は、1989年東京都生まれ、横浜国立大学大学院で博士(学術)。三笠市立博物館学芸員を経て、現在は(財)深田地質学研究所研究員です。専門は古生物学、アンモナイトで、著書に」僕とアンモナイトの1億年冒険記」(イースト・プレス)などがあります。
アンモナイトは、3憶年という非常に長い間、地球上に生存し、様々な形に進化して繁栄しました。これまでに発見された種の数は、1万種以上とも言われています。アンモナイトは、渦巻状の殻で巻貝に似ていますが、巻貝の仲間ではなく、イカやタコ、オウムガイなどと同じ頭足類です。現在生きているイカやタコがおよそ700種ですから、アンモナイトはそれよりはるかに多くの種がいたことになります。その化石は、地層の時代を判断する有効な指標となるので、「示準化石」の代表として地質学に大きく貢献してきました。
アンモナイトが登場したのは、今からおよそ4憶年前の古生代デボン紀前期でした。海中を泳ぐ生きものが爆発的に増えた時代です。高速の魚類に追われ、アンモナイトは巻いた漏斗から水を噴射し、効率良く遊泳して移動するように進化しました。さらに繁殖戦略も巧妙でした。孵化サイズの縮小と、殻の大型化です。小さな卵をたくさん産んで、成体サイズを大きくして防御能力を高めたのです。殻の装飾も次第に派手になってきました。
ところが、アンモナイトは白亜紀末の大量絶滅事変で、一つの系統も残すことなく絶滅してしまいました。過去に何回も危機を切り抜けてきたのに、なぜここで絶滅したのでしょうか。白亜紀の大量絶滅では、隕石の衝突で地球上の75%以上の生物種が絶滅しました。鳥類を除く恐竜や、海棲爬虫類、翼竜などがすべて絶滅したことは良く知られています。しかしアンモナイトの場合は、同類のイカやタコ、外殻性のオウムガイがなぜか生き残っていました。その有力な説としては、孵化サイズの違いが挙げられています。アンモナイトの赤ちゃんは浮遊性の少卵多産型、オウムガイは遊泳性の大卵少産型でした。隕石衝突による環境変動で、酸性雨が降り続き、海表面の酸性化が進みました。アンモナイトの赤ちゃんは、生まれてすぐのサイズは1 ミリにも満たず、この環境に曝されて死亡し、一方のオウムガイの赤ちゃんは、自発的に泳いでこの危機を乗り越えたと考えられます。 アンモナイトのサイズは種によってさまざまです。最小の種では殻直径1センチですが、北海道の三笠市立博物館には、殻直径2,5 mという世界最大のアンモナイト・パラプゾシアの生体復元模型が展示されています。日本橋三越本店、地下鉄三越前駅では5センチほどの化石を見ることができます。しかし成長速度や寿命は、よくわかっていません。
アンモナイトの泳ぎ方には、現生のオウムガイが参考になります。オウムガイは、殻の住居の奥から頭に繋がった「頭部牽引筋」を収縮して、体全体を殻の中に引き込み、その反動で中の海水を押し出して推進力を生んでいます。円盤状のアンモナイトの遊泳能力は、ロボットによる実験で確かめられました。アンモナイトの復元研究も進んでいます。近年、ドイツで軟体部の化石が発見されました。消化器系に生殖器官まで残っていました。腕は10本のようです。生態も含めた精巧な復元画が楽しくなってきました。「了」

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