低温「ふしぎ現象」小事典—0℃~絶対零度で何が起ころか–2024年1月6日 吉澤有介

低温工学・超電動学会編、ブルーバックス、2011年⒓月刊  編者は、1961年に設立された「低温工学懇話会」をもとに、2011年3月に発足しました。この分野は、超電導をはじめとする物理、化学、電気、機械、材料、通信、生物、医学の多岐にわたります。本書では、各領域の研究者、技術者が、一般向けに解説したものです。
私たちは、ふだん常温の環境で生活しています。平均温度でいえば、絶対温度300k(27℃)あたりですが、低温の世界を探求してゆくと、様々な不思議な現象が現れてきます。通常経験するところから見てゆきましょう。古代エジプトでは、天然のウオータークラーが使われていました。素焼きの壺(ジイール)に水を入れ、外側にしみ出る水の気化熱で冷やします。世界各地に普及しました。壺を二重にすると、暑い日でも14℃まで冷えたといいます。
魔法瓶は、液体酸素を保存するために、1892年にイギリスのデユワーによって発明されました。二重ガラス容器で熱伝導、対流、放射の三つの伝熱モードを遮断します。ステンレス容器は、金属材料から漏れるアウトガスを、日本酸素kkが解決して製品化したものです。
味を一瞬に閉じ込める食品の冷凍・保存・解凍技術は、目覚ましく進歩しています。緩速冷凍では、まず細胞外の水が凍結し、それにつれて細胞内の水溶液が脱水、収縮して、細胞が機械的に損傷し、ドリップが出て味を損ないます。急速冷凍すれば、細胞内の水分も一瞬で凍結し、細胞は劣化しません。なお、野菜は急速解凍、肉類は緩速解凍が正解です。
スポーツ選手がケガをしたとき、よく使う冷却スプレーは、瞬間冷却、応急アイシングによって、患部を麻酔し、鎮痛効果を挙げています。人間の冷たく感じる感覚は、痛いと感じる感覚より速く腦に伝わるため、痛覚を冷感に置き換えて、痛みを軽減するのです。
アラスカやシベリアなどには「永久凍土」があります。これが融けると環境へのダメージが大きく、天然ガスのパイプラインで大きな問題になりました。アラスカでは噴出ガスが49℃もあるので、断熱ヒートパイプを支柱にして、パイプラインを全部高架にしています。
南極では極寒の世界が展開しています。地球上の最低気温は、南磁極にあるロシアのポストーク基地の―89,1℃(1983年)ですが、日本のドームふじ基地でも、-79,7℃を記録しました(標高3810 m)。幻の太陽や蜃気楼に、オゾン層破壊の前兆の紫色の雲も現れます。
超低温技術では、LNGがあります。日本は専用のタンカーに頼っていますが、液化して輸送するまでに10~15%のエネルギーが消費されます。もとのエネルギー密度が低いので、石油や石炭火力より、総エネルギー収支は小さい。冷熱エネルギーの有効利用が重要です。
低温で空気を液化して、各成分の沸点により高純度で分離する「深冷分離法」もありました。
極低温での「超電導現象」は、1911年に発見され、その75年後に「高温超電導」が見つかって、実用化への道が開かれました。水銀系銅酸化物で、―113℃が得られています。
液体水素は、⒕~33k(約-250℃)で存在するエネルギー源です。大気圧での沸点は、20,3kという極低温なので、断熱容器が重要で、水素密度は容器も含めて計算します。液体水素密度は、水素ガスの790倍ですが、標準燃焼エンタルピー(燃焼熱)では、他の燃料よりは小さい。メタンの1/3程度です。製造・貯蔵・輸送技術に一層の革新が必要でしょう。」了」

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