「老化は治療できるか」  2026年3月10日 吉澤有介

河合香織著、文春新書、2023年11月刊、  著者は1974年生まれ、神戸市外国語大学卒、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。
ノンフィクション作家。2009年「ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち」で小学館ノンフィクション大賞を受賞。2019年「選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子」で大宅壮一ノンフィクション賞・新潮ドキュメント賞をダブル受賞しています。
古今東西、不老長寿は人類の究極の願いでした。それは実現可能なのでしょうか。近年、アンチエイジングが大流行しています。日本では、100歳以上の人口は毎年増え続けて、現在は9万人を超えました。平均寿命は明らかに延びています。しかし、最大寿命は120歳前後で、殆ど変わっていません。人間の寿命には「生物学的年齢」と「回復力」という二つの要素があるといいます。後者が、DNAの修復能力で、年齢によって失われてゆくのです。
現在、DNAの修復能力を高めて、老化を治療する研究が盛んに行われています。著者は、世界の最前線で活躍する内外の研究者を訪ね、その情報をわかりやすく紹介しています。
東京大学の小林武彦教授によると、生物にはそれぞれ最大寿命があり、人間の本来の寿命は55歳前後、ハツカネズミは3年でした。ところがアフリカのサバンナにいるハダカデバネズミは、30年も生きます。熊本大学の三浦恭子教授は、1400匹のハダカデバネズミを飼育しています。地中にいて、社会的な分業制で、エネルギーをあまり使わず、低酸素、低代謝で生きています。ダメージの修復力が高く、さらに、老化細胞を除去するメカニズムを持っていることがわかりました。老化しないまま、健康寿命で死ぬという、まさに理想的な生き方です。このメカニズムは、老化を抑えるための、大きなヒントになっています。
老化は必然ではなかったのです。しかし、死だけは避けられません。生き物には死が必然でした。ところが10ミリもない小さなベニクラゲが、その常識を覆しました。ベニクラゲは、命の危険に晒されると、どんどん若返って、細胞が未分化のポリプの状態まで立ち戻り、そこからまた新しい細胞に分化してゆくのです。和歌山県湯浅町にある研究所で、もと京都大学准教授の久保田信所長による発見でした。なんと14回も若返りに成功しています。その後の研究で、特有の遺伝子が働いていることがわかりました。それはES細胞ともiPS細胞とも異なる、若返り遺伝子だったのです。ヒトの肌などの若返りも期待できそうです。
大阪大学の石谷大教授は、ヒトの老化のメカニズムの解明を進めています。糖尿病の治療薬メトホルミンに健康寿命を延ばす効果がありました。米英でも確認されています。アミノ酸代謝物が、老化をコントロールしていました。老化は一様に進むのではなく、ある時点でガクッと進みます。スタンフォード大学は、血中タンパク質が要因と突き止めました。
老化は果たして「病気」なのでしょうか。もしそうなら治療できるはずです。細胞を初期化するiPS技術は、究極の若返りです。染色体にあるテロメアやオートファジーの活性化も有望です。最大の難関は「脳」にありました。大谷選手の「寝る力」や腸の免疫機能も注目されています。また社会的つながりが、寿命を延ばしていました。最大寿命は延びなくても、健康寿命は延びるのです。「主観的幸福感」を持って、幸せな長寿を送ることでしょう。「了」

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