藤井敏嗣著、岩波新書、2025年10月 著者は、1946年福岡県生まれ、東京大学大学院理学系研究科修了、理学博士。東京大学地震研究所教授、同所長、東京大学副学長、気象庁火山噴火予知連絡会会長を歴任。現在は東京大学名誉教授。山梨県富士山科学研究所所長、文部科学省次世代火山研究・人材育成プロジェクトリーダーなど。専攻はマグマ学、火山学、火山防災政策。著書に「火山–地球の脈動と人との関わり」(丸善出版)ほかがあります。
現在、活火山の定義は、火山調査研究推進本部により、現在活発な噴気活動がみられるか、過去一万年以内に噴火したことがある火山を、活火山と呼んでいます。日本には、北方領土も含めて110の活火山があり、富士山はその一つです。
最近の研究によると、富士山が火山活動を開始したのは、約10万年前のことでした。日本の火山の寿命は平均して50~100万年ですから、富士山の火山としての10万年は、人間に例えるとほぼ10~20才の、最も活発な青年時代に相当します。この300年は噴火していませんが、それはほんの一瞬のことで、火山としては非常に若い部類に入るのです。これからもまだまだ活動を続けるものとみなければなりません。
地質時代の噴火は、山体周辺のテフラや溶岩流などの堆積物の研究で、5600年前までに181回の噴火活動が確認されています。つまり5600年前から。1707年の宝永噴火までに、富士山はほぼ30年ごとに噴火していたことが、明らかになりました。最近の沈黙は、異常事態と言ってよい。1980年代から富士山の連続観測が開始されました。一ヶ月に約10回の深部低周波地震が観測されています。2000年10月には突然、一ヶ月に100回以上になり、一年間続いて研究者たちに緊張が走りました。現在は10回ほどに戻りましたが、予断を許しません。いつ噴火してもおかしくないのです。
富士山の噴火は、ほとんどが粘性の低い玄武岩マグマによるものでした。斜面に数キロの割れ目ができ、噴水のように噴き上げて、溶岩流として流れてゆきます。積雪があると、融雪型火山泥流になって、高速で遠方まで流れます。氷期には多発して、現在の裾野を形成しました。一方、マグマが地下で急激に発泡する爆発的噴火もありました。過去に7回発生しています。1707年の宝永噴火では、噴煙は数万メートルに達し、江戸でも数セントの火山灰が積もりました。地元の村落の被害は甚大で、噴火が15日も続いたのも異例でした。富士山の噴火は複雑で、多様だったのです。
富士山の地下には、南東から沈み込むフィリッピンプレートと、東側から沈み込む太平洋プレートが重なる二重構造があり、マグマ溜まりは20㎞と深い。しかも山体の内部には、複数の火山が隠れています。観測による予測が困難な所以でした。
本書では、古記録を詳細に分析しています。噴火のメカニズムが複雑なので、防災ハザードマップも改訂を重ねました。大規模噴火の頻度は少ないとしても、宝永噴火後の休止期間の長さが不穏です。あらゆる可能性に備えなければなりません。「了」

