「アルファベット順の文化史」—図書館の分類法からオリンピックの国別入場まで–2025年11月20日 吉澤有介

ジュデイス・フランダース著、星慧子訳、原書房、2025年10月刊 著者は、バッキンガム大学のシニアリサーチフェローで、社会史を専門とする歴史家です。著書に「クリスマスの歴史・祝祭誕生の謎を解く」(原書房)などがあり、タイムズ文芸付録誌や、ウオール・ストリート・ジャーナルに、よく寄稿しています。
文字の始まりは岩に描かれた絵でした。続いて表意文字が登場し、物体だけでなく、それに関連する概念を表現できるようになりました。BC3500年ころのシュメールに、世界初の楔型文字が生まれ、当時の交易相手であったエジプトでも、独自のヒエログリフが発展しました。しかし、その習得は難しく、扱えるのは聖職者やエリート層に限られていました。BC15~20世紀ころに、エジプトの西の砂漠の都市などで、画期的なアルファベット文字が発明されました。単語の意味とは関係なく、個々の音を記すことで、すべての単語を表わすことができたのです。僅か30個ほどの記号を覚えるだけで使用できるので、砂漠を旅する人々に急速に広まってゆきました。
アルファベットには順番がありました。しかし、その順番を分類に使うのは、また別の話でした。アレクサンドリア図書館には、5万点を超える資料が所蔵されていましたが、その目録は、大体がジャンル別に分類されていたとみられます。ローマ時代から千年の伝統を持つ修道院でも、図書館の目録は重要度順に分類していました。
AC560年ころにセビリアに生まれたインドールスは、教父として膨大な図書を保有して、20巻に及ぶ世界初の百科事典「語源」を編纂しました。多くの知識分野の項目に目次を付けています。その順番は伝統的な主題別や登場順でしたが、第10巻の「語彙」だけを、明確にアルファベット順としたので、後世に大きな影響を与えました。
しかし、それでもアルファベット順は、ごく一部に使用されただけでした。著者は中世にかけての多くの文献について、それらがまだカテゴリー別などであったと述べています。神、天使、人間、魂、肉体、自然界など、階層順が主流だったのです。
18世紀後半になってもなお、ハーバード大学やイエール大学では、学生たちは階級と地位によって並べられていました。入学者名簿は、まず学生の家族の社会的地位と財力によって順位づけされ、さらに父親が同じ大学を出たかも問われました。
アルファベット順の利点は、意味も価値もなく、全く中立公平であることでした、アルファベットの誕生以来、約3000年をかけて、ようやく分類ツールとして定着したその歴史は、苦労して発明されたのに、定着してしまうとごく当たり前の存在になっていました。私たちの時間の多くは書類の「アーカイブ」を探すことですが、その「アーカイブ」とはギリシャ語が語源の、「文書館」と、「文書館が収蔵する文書」の二つの意味がありました。アルファベット順は、印刷技術にも促進されて、アラブ世界、中国や日本も含めて、新たな世界へ導く分類システム体系だったのです。「了」

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