20世紀科学論文集「プレート・テクトニクス」 2025年10月22日 吉澤有介

木村 学編、岩波文庫、2025年8月刊  編者は、東京大学名誉教授。主な研究分野は、構造地質学、テクトニクスです。論文の訳者は、浜橋真理(山口大学国際総合科学部・大学院創成科学研究科理学系学域講師。主な研究分野は、構造地質学・海洋地質学)。高下裕章(産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門資源テクトニクス研究員。主な研究分野は、構造地質学、海洋底物理学)。多くの古典論文を取り上げ、分担執筆しています。
1970年代の初めに、プレート・テクトニクスが確立して、それまでの地質学の伝統的な地向斜造山論は完全に覆りました。仮説と観測によって新たな理論体系が構築されたその過程は、科学史上際立っています。パラダイム転換を成し遂げたその論文集は、いまや科学論文の古典とされて繰り返し読まれ、現在まで引き継がれています。
本書では、序章としてウェゲナーの仮説「大陸と海洋の起源」(1915)を挙げています。ウェゲナーは、その仮説を自身で経度測定によって実証するため、グリーンランドに渡り、観測中に不幸にも遭難死しました。仮説は一時停滞します。しかしその「大陸移動説」は、やがて後の研究者たちによって進展し、事実として確定します。
ヘスは、進歩した地球物理観測に基づいて、海洋と大陸の成立を論じ、マントルが1cm/年の速度で対流していることから推論して、中央海嶺の下から対流セルが上昇しているとして、新たに定性的な「海洋底拡大説」を提案しました。この仮説はヴァインとマシューズが、海洋地殻の岩石の磁気に逆転現象があることから定量的に捉え、その磁気縞模様を「テープレコーダ仮説」として発展させました。これらの科学論文は重要な示唆を与えてくれました。ウェゲナーが自説の根拠としたのは、大陸の植生や沿岸地形の類似でしたが、古磁気学からも1960年代に同じ結論に達したのです。
中央海嶺の周辺の海底地形が、次第に明らかになってきました。それは直線状の構造ではなく、細かく分断されている断裂帯でした。ウィルソンは、「海洋底拡大説」に基づいて、1965年に新たな仮説「断層の新しい分類と大陸移動との関係」を発表しました。地球の表面には複数の大きな剛体のプレートがあり、変動帯を通じて連続的なネットワークとして存在する。そのある構造が異なる構造に変化する接合部を、トランスフォーム断層と命名しました。トランスフォームが、オイラーの球面幾何学による「小円」の軌跡を辿ることも証明されて、プレート・テクトニクス理論との整合性がさらに強調されました。ホットスポットについてもウィルソンは、長期的に持続する高温の小さい領域が、プレートの下に存在し、熱ブルームを供給していると考えました。プレートは移動しますが熱源の位置は固定しているので、火山列のトラックができるのです。ウィルソンに、論文「ハワイ列島の起源について」があります。
現在の地球表面には、56の大小プレートがあり、その境界には三重会合点が生まれて、プレートの運動の進化を示しています。火山や島弧の論文も、貴重でした。「了」

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