田中英道著、育鵬社、2018年1月刊 著者は、1942年東京生まれ、東京大学文学部仏文科、美術史学科卒、ストラスブール大学に留学して博士号を取得。文学博士。東北大学名誉教授。フランス・イタリア美術史研究の第一人者。一方、日本美術の世界的価値に着目して、日本独自の文化、歴史の重要性を提唱しています。著書は、「日本美術全史」(講談社)、「日本の歴史 本当は何がすごいのか」、「日本の文化 本当は何がすごいのか」、「世界史の中の日本 本当は何がすごいのか」、「日本の美仏50撰」(育鵬社)など多数があります。
1999年、アメリカの「ライフ」誌は、特集として「この千年で最も重要な功績を残した百人」を選定しました。その百人の中に日本人がただ一人選ばれています。葛飾北斎でした。芸術家では7人が入り、ダ・ヴィンチが第五位、ミケランジェロが第36位、北斎は第86位でした。それだけでもすごいことでしたが、著者は北斎をダ・ヴィンチと並ぶ価値があるといいます。その順位にならなかったのは、北斎に肖像画がなかったからでしょう。西洋の価値基準には、肖像画がありました。これは痛い。
しかし、北斎には「写楽」として描いた「役者絵」がありました。北斎は写楽だったのです。著者は、「北斎=写楽」説として、多くの証拠を挙げて実証しています。
写楽が「役者絵」で世に出たのは、寛政6年(1794)の春でした。それが140点以上の作品を残して、わずか十カ月で忽然と姿を消しました。この時期は、ちょうど北斎の空白期に当たっています。北斎は若い頃、江戸浮世恵の一派である勝川一門に入り、勝川春郎と名乗って、黄表紙や役者絵の力作を、百点以上も描いていました。ところが寛政6年に、なぜか突然消息を絶ちました。そして翌年、宗理と改名して現れ、その後何回も改名して、文化二年(1805)に葛飾北斎を名乗りました。写楽の活動期間と、北斎の空白期の時期が、ぴったり一致します。しかも春郎と写楽の役者絵が、非常によく似ているのです。構図もほとんど同じでした。さらにボストン美術館にある、北斎の作品が彫られた版木の裏から、写楽の作品が発見されました。同一版木を使ったからには、両者が同一人であることは明らかです。決定的な証拠でした。
さらに春郎時代の北斎も、写楽も、ともに蔦屋重三郎から出版されています。蔦屋は両人?の力量を熟知していました。突然現れた写楽に、豪華な役者絵を描かせ、大評判になりましたが、それまで理想化された役者絵と違い、あまりにも似顔が真に迫っていたので、問題を起こしたのです。豪華な雲母摺も、老中松平定信の寛政の改革で睨まれ、危険が迫っていました。改名だけでは危うい。姿を消すしかありません。
これほどの証拠がありながら、研究者たちは写楽を、ある能役者だといいます。伝聞による資料だけを頼っているのです。あれほどの名作を、蔦屋が大金を投じて素人に書かせたはずはありません。著者は、西洋美術史研究の方法論によって、作品そのものを分析して、「写楽=北斎」説には説得力がありました。嬉しいですね。「了」
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