小林朋道著、築地書館2025年1月刊 著者は、1958年岡山県生まれ、岡山大学理学部生物学科卒、京都大学で理学博士。
高校教諭を経て鳥取環境大学講師、教授。2024年より学長。専門は動物行動学、進化心理学。著書に、「利己的遺伝子からみた人間」(PHP研究所)、「ヒトの脳にはクセがある」、「ヒト、動物に会う」、「モフモフはなぜ可愛いのか」(新潮社)など多数。
中国山地の山あいで、幼いころから野生動物たちと触れ合い、気が付くとそのまま大人になっていました。勤務している大学でも、一日のうち少しでも野生動物との交流がないと、体調が悪くなります。ある日、キャンパス内の林を歩いていたら、獣道に履き古したスニーカーが片方だけ落ちていました。タヌキの仕業に違いありません。タヌキはヒトの履物の匂いを好み、持ち出す習性がありました。またやったな。
学生たちとニホンモモンガやアカハライモリの調査もしてきました。しかし、ヒトによる開発や樹木の伐採で、彼らの生息地は次第に減少していました。地球は一つの宇宙ステーションです。そこには人類生命維持装置があり、彼ら野生動物は、その構成要素なのです。彼らがいなくなれば、装置は機能しません。ヒトに多少の被害があったしても、彼ら本来の生息地を守り、お互いに共存する努力が必須でしょう。
ニホンモモンガは、スギが大好きで、葉を主食のようによく食べます。著者は鳥取県東部の芦津の森で、スギの木に巣箱をかけて10年以上も観察してきました。「芦津モモンガプロジェクト」です。巣箱の中には、スギの樹皮を細かく裂いてふかふかになった寝床ができていました。手袋をして中を探ると、モモンガは勢いよく飛び出します。網袋に捕らえて雌雄を確認して体重を計り、新個体にはマイクロチックを付けてスギの根本に放つのです。モモンガはすぐにスギの幹に飛び移り、上へ登ってゆき空中を滑空します。ある日、モモンガは調査地の小川に、自分から飛び込んで泳ぎ始めました。これらの貴重な生態を、地域活性に役立てるために、学生たちは地元の人と、スギの木片にモモンガの絵を描いたコースターをつくり、販売して好評でした。
著者は、鳥取砂丘の西端にある千代砂丘の海辺をよく歩きましたが、2023年1月、その海辺でイルカの遺体が打ち上げていたのを発見しました。博物館の許可をとってクルマに載せ、研究室に運びました。体長は1,5m とやや小型で、皮膚と肉の一部が残っていましたが、臭くはありません。骨格標本をつくることにしました。学生たちも、学内で飼育しているヤギも、好奇心いっぱいで見学に来ました。実は、ヤギとイルカは、進化学的に近い親戚だったのです。鯨偶蹄類の仲間でした。ウマやサイは奇蹄類で、祖先が先に分かれていました。その後で鯨類が分かれたのです。ヤギとイルカの出会いは感動的でした。遺体から皮膚や肉を除く作業は困難でしたが、ミールワームやハエの幼虫、ダンゴムシなどが協力してくれました。自然に任せるのが一番だったのです。学長になった著者は、今も野生動物たちと深く交流しています。「了」
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