鈴木正彦、末光隆志共著、中公新書、2023年7月刊 著者の鈴木さんは、1948年神奈川県生まれ、東京大学大学院理学系研究科で植物学を専攻、理学博士。三菱化成総合研究所、農林総合研究センター・グリーンバイオセンター所長、北海道大学教授などを歴任。著書は「植物バイオの魔法」(農文協)ほか多数。末光さんは、1948年大阪府生まれ、東京大学大学院で動物学を専攻、理学博士。埼玉大学名誉教授。著書に「生物の事典」(編著・朝倉書店)ほかがあります。
生物は、自ら「利己的」に生き残り、遺伝子を次世代に継承したことで進化したといいます。しかし現実には、「利他的」な行動が多く、集団としての生き残りに有利だったという説も有力です。危機に際して、利他的に助け合うほうが助かるからです。
その代表例は、母親の子どもに対する愛情でしょう。極端な例に、ある種のクモは母親が自分の内臓や身体を、食料として子供に食べさせていました。このような血縁者間の利他的行動は、子孫を残すという生物の本質を示しています。そこには脳の皮質にあるオキシトシンが、働いていました。血縁でない異種の動物間でも利他的行動が見られます。オオワシが放し飼いのニワトリを襲ったとき、同じ農場に飼われていたヤギが、猛然と向かってオオワシを追い払い、ニワトリを救った例もありました。
利己的行動では、集団の生き残りのために、仲間以外の相手に対する攻撃があります。殺すかあるいは奴隷にしました。匂いなどで見分けますが、それを逆手にとって相手を騙し、利益を得るアリがいます。人間の社会でも、奴隷制度がありました。
利他的行動の中に「共生」があります。花と昆虫の関係のように、お互いにメリットのある生き方です。細胞レベルでも、進化の途上で捕食・消化の相手と、細胞の内外で共生していました。細胞内共生から真核生物が生まれたのです。自己複製と代謝は生物の特徴です。真核細胞は明確な核を持ち、核膜で遺伝情報を包んでいます。さらにミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体などの小器官を持ち、植物では葉緑体も持っています。細胞内共生説が生まれたのは1970年のことで、その祖先を探るために、2020年、日本の海洋研究開発機構が、「深海6000」でアーキア(古細菌)の一種を採集して培養に成功しました。ミトコンドリアの共生は、宿主細胞にとっては産業革命にも匹敵する、画期的な出来事でした。真核細胞で、ミトコンドリアと葉緑体は奴隷化されて、余剰エネルギーが大量に生まれ、進化が飛躍的に進んだのです。
動物の中には、食べた物の一部を消化・分解しないで、それらの機能を自分の生存に役立てているものがいます。ウミウシの「盗葉緑体」は盗んだ葉緑体で、光合成をしていました。フグ毒も他の生物から取得したものです。ヒトの腸内細菌も、ヒトの食べ残しをエサにして共生しています。脳とも密接に関与していました。細菌たちの遺伝子は、「利己的」に行動しながら、「利他的」な働きをしているのです。「了」
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