三浦基弘著、東京堂出版、2015年7月刊 著者は、1943年北海道旭川市生まれ、東北大学、東京都立大学で土木工学を学び、大東文化大学講師、「技術教室」(農山漁村文化協会)講師などを勤めました。専門は構造力学です。主な著書に「物理の学校」(東京図書)、「世界の橋大研究」(PHP研究所)、「身近なモノ事始め事典」(東京堂出版)、などがあります。
私たちが普段、何気なく使っている言葉や、日常使っている製品のルーツには、思いがけない秘密がありました。発明やアイデアの歴史(文化史)はよく知られていますが、そこにはさまざまな個人的な体験やエピソードもありました。本書では、その社会と人間のこころに関わる「文化誌」の側面を、興味深く取り上げています。各分野の事例を36項目挙げていますが、ここではそのいくつかをご紹介しましょう。
・「めがね」 レンズの語源は地中海地方原産の豆で、最古のレンズはBC700頃のアッシリアで見つかりました。オリンピックの聖火は、現代でも太陽光から採られています。17世紀にひも付きのメガネが発明されましたが、日本人は鼻が低くて合わず、今の鼻当てを考案したといいます。やがて種々のフレームが現れました。鯖江のフレーム産業は、明治38年、地元の名士増永五左衛門(28才)の奔走で生まれ、折からの新聞雑誌などの印刷文化の発展で、メガネは日用品として定着してゆきました。
・「乾電池」 実用的な電池は、1800年イタリアの物理学者ボルタが発明しましたが、電解液が液体だったので、扱いに不便がありました。1887年(明治20)、長岡藩の下級武士出身の尾井先蔵は、神田の時計店の丁稚でしたが、持ち歩きできる電池を目指して研究し、ついに世界初の乾電池を発明しました。最大の難関は、炭素棒に電解液を滲み込ませないことでしたが、ある夜、蝋燭のロウが流れたのを見て、炭素棒を保護したのです。1年後のドイツのガスナーの発明に特許で先行されて残念でした。
・「食品サンプル」 これは日本独自の発想から生まれました。大正時代、百貨店の食堂から医学模型を手掛けていた島津製作所に依頼があったのが始まりで、事業化の最初は岐阜県生まれの岩崎滝蔵でした。寒天で型をとり、蝋を流し込む手作りでした。
最近は、3Dプリンターが活用されています。ただ着色は、職人芸の世界だそうです。
・「歩数計」 東京オリンピックを契機に、医師の大矢巌は一日一万歩運動を提唱しました。たまたま患者だった山佐時計計器(株)社長の加藤二郎が共鳴して、テコの原理を応用し、1965年(昭和40)に「万歩計」が生まれました。マイルの由来では、2歩が1歩でしたが、測量学では、一跨ぎが1歩です。1万歩は大へんですよね。
・「暗号」 古代エジプトのヒエログリフにも、暗号と推定される文字がありました。古典的な形式の代表は、「換字式」で、文字列をスライドさせ、シーザーがよく利用していました。コンピュータを使った始まりは、チューリングで、今日さまざまな暗号が考案されています。個人情報などのセキュリテーは、最重要課題なのです。「了」
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