佐藤拓巳著、光文社新書、2025年1月刊 著者は、1961年岩手県生まれ、東京大学農学部畜産獣医学科卒、京都大学大学院医学系研究科で分子医学を専攻して博士(医学)。大阪大学蛋白質研究所、(財)大阪バイオサイエンス研究所、岩手大学工学部准教授、米国サンフォート・バーナム研究所を経て、現在は東京工科大学応用生物学部教授。麻布大学客員教授を兼務しています。専門は神経科学。抗老化学。著書に「腦の寿命を延ばす{腦エネルギー}革命」(光文社新書)、「ケトン体革命」(エール出版社)ほか、多数の論文があります。
20世紀初頭、各国の登山隊はヒマラヤの最高峰エベレストに挑戦して、7%以下の酸素濃度に悩んでいました。ところがその高度の遥か上空を、アネハヅルの群が悠々と超えていったのです。ヒトとアネハヅルの低酸素での運動能力には、とてつもない差がありました。生物の中でも、特に鳥類の運動能力は別次元のものでした。その理由は、鳥が哺乳類とは異なる、特別のミトコンドリアを持っているためで、酸素吸収能力が高く、活性酸素が低い、その働きは気嚢システムでさらに高まっていました。
では鳥類は何時このような能力を獲得したのでしょうか。著者は、これを2億5千年前の古生代末期のベルム紀に起きた、PT境界の直後と考えています。約5億4千年前に始まる古生代から現代まで、大きく5回の大絶滅が起こっていますが、PT境界ほど大きな絶滅はありません。後のKT境界のときは、小惑星の衝突が原因でしたが、PT境界は地球内部で起こりました。バンゲア大陸の広範な部分からマグマが吹き上がり、大陸の約半分が灼熱の世界になりました。空気中の酸素濃度が30%から10%まで、一挙に減少したのです。三葉虫も含めて、95%以上の種が絶滅しました。
その後の三畳紀からジュラ紀中期までの数千万年の間、酸素濃度が10%だったのです。その低酸素が生物の爆発的な進化を促しました。ここで初期獣脚類だけが革新的なボデープランを生み出し、低酸素での卓越した運動能力で、三畳紀の生態系の覇者となったのです。一方、私たち哺乳類の先祖である獣弓類は、低酸素に適応できないだけでなく、前の酸素濃度の高いベルム紀に有利だった内温性が熱中症を招くため、が動作は鈍く地中に隠れ、夜行性でようやくごく少数が生き残っただけでした。
恐竜や鳥を含む獣脚類が、この低酸素を乗り切った要因の一つは、ゲノムを半分も切り落としたことでした。ゲノムサイズが小さいと、運動能力が格段に向上します。鳥のゲノムサイズは、ヒトの3割ほどしかありません。さらに細胞内に共生するミトコンドリアが猛烈にエネルギーを生産しました。その性能は格別で、著者はスーパーミトコンドリアと呼びました。ミトコンドリアが働くと、通常は活性酸素が発生します。しかし鳥の場合、ホルモンのインスリンが活性酸素を抑制して、老化を防いでいました。同族である恐竜も同じく高い運動能力があったことでしょう。獣脚類は中生代の覇者となり、後継者の鳥がそのジュラ紀後半に飛行能力を獲得したのです。「了」
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