グロリア・デイッキー著 水野裕紀子訳、化学同人2025年1月刊 著者は、カナダ出身ロンドン在住の通信記者。コロラド大学大学院で環境ジャーナリズムを学び、ロイター社で、地球規模の気候・環境問題を、NY・タイムズなど多くのメデアに寄稿し、国際報道部門の若手記者として注目されています。
著者は、幼少時から野生動物に夢中でした。修士課程で「野生の土地と都市との境界」を学ぶために、コロラド州ボニルダーニに移住すると、街にはクマが頻繁に出没していました。果樹園や街のゴミ箱が目当てなのです。市民が襲われる事故が多発し、州当局は危険なクマを殺処分しました。しかし市民の抗議で、堅固なゴミ箱を設置する条例を出すことにしました、この問題は、米国西部では、都市の拡大で各地に拡大していました。人間とクマとの関係は、転機を迎えようとしていたのです。
クマ科は、かって人間に最も近い動物と見られていました。二足歩行にも親しみがあります。しかし、遺伝学で否定され、人間によって絶滅に追いやられようとしていました。現存するクマは、種数が極めて少なく。ヒグマ、アメリカクロクマ、パンダ、ホッキョクグマ、ツキノワグマ、マレーグマ、ナマケグマ、メガネグマの8種だけなのです。外見も習性も多様ですが、それぞれが自然環境に重要な役割を担っていました。しかし現在、どのクマも困難な状況に置かれています。著者は、ここで8種のクマの現状を確かめ、その研究者に会うために、世界を巡ることにしました。
南米のメガネクマは穏やかで、ペルー南部の雲霧林がその住処でした。標高2700mの高地に3700頭のクマを探りましたが、鉱業による環境破壊は凄まじく、低地に降りることを嫌うクは、林の奥に追われて姿を見せません。現実は厳しいものでした。
インドのナマケグマは、体重100㎏と小柄ですが、獰猛なことで知られています。熱帯乾燥林で主にシロアリを食べていますが、人口の多いインドでは、住民との衝突が絶えません。旱魃でさらにその軋轢が増して、保護行政は困難を極めていました。
パンダは、著者も飼育研修を受けましたが、竹に好みがあり、500種のうち60種だけを食べます。パンダは中国当局の政治的配慮で、危うく絶滅を免れていました。
ベトナムでは、ツキノワグマの胆汁採集の長い伝統がありました。「黄金の液体」は観光資源なのです。非合法のクマ牧場もありました。密漁で個体は激減しています。
しかし、賢いクマは。気候変動で都市環境を覚え、一そう賢くなってゆきました。嗅覚に優れ、知的認識力は実験でも確かめられています。北米のヨセミテは、人間とクマの間に起こるあらゆる衝突の実験場と化していました。クロクマや、ヒグマの亜種のグリズリーの被害が急拡大しているのです。狩猟で激減したグリズリーは、保護対象で再び脅威になっていました。野生のホッキョクグマは、狩猟に道具を使うほど賢く、世界で約2,6万頭いますが、海氷の融解という環境変化の影響を受けて、絶滅が危惧されています。クマを失った私たち人類に、未来はあるのでしょうか。「了」
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