渋沢寿一著、大和書房、2024年6月刊 著者は、渋沢栄一の曽孫です。1952年生まれ、東京農業大学大学院で博士(農学)。
JICA専門家としてパラグアイ国立農業試験所に赴任、1983年帰国して長崎ハウステンポスの役員、その後ベトナム、ミヤンマー、エクアドルなどでマングローブ林の復元に注力、2002年からはマタギ、炭焼き、樵などの知恵を現代高校生につなぐ「聞き書き甲子園」を主催し、その活動母体として20007年NPO[共存の森ネットワーク]を設立して理事長。企業と連携して「里山資本主義」の実現を目指す、環境教育活動を推進中です。
本書のタイトルは、曽祖父である渋沢栄一が著作した、「論語と算盤」から採っています。栄一は、経済とともに倫理の必要性を説きました。栄一没後100年が経ち、私たちは、有限な地球の上で、新たな経済と生き方を見直すことに迫られています。著者にとって、栄一は遠い存在ですが、その志に沿って、自然を次世代に繋ぐ活動に入ったのです。
「里山」という言葉を知り、全国各地の森に通って人々と交流し、様々な知恵を学びました。私たちの祖先は、江戸時代までは、全員が自然とともに暮らして、生きてきたのです。江戸は100%自然再生の街で、同時期のロンドンやパリが、排泄物にまみれていたのとは、大きく違っていました。隅田川では、春のシロウオの踊り食いが名物でした。
そんな時代に生まれた栄一は、「資本主義」ではなく、「合本主義」を唱えていました。「資本主義」では、「資本」が、生産、流通、サービスの主人となる経済体制ですが、「合本主義」は、「公益」が使命で、そのために最適な人材、資本を集めて事業を推進します。
人と人が作り出す豊かな社会を追究し、公益優先の強い規範が求められます。しかし、「資本」は利益第一で暴走してゆきました。そこで栄一は、論語で歯止めをかけたのです。
現在人類は、地球の元本にまで手をつけています。多くの問題が顕在化してきました。その対応には、栄一の思想が大きなヒントになるとして、各地の事例を紹介しています。
秋田には、江戸時代の飢饉にも、一人の餓死者も出さなかった、鵜養という集落がありました。広葉樹の森33か所を、毎年順次皆伐して燃料とし、株が萌芽再生するまでの明るい山では、キノコやワラビが採れました。共有のクリ林で最低限のカロリーを取り、集落周辺のスギで、建材も確保しました。完全持続可能な暮らしができていたのです。
著者は「里山資本主義」で、岡山県真庭市と深く関わりました。その中和地区に移住したUさんは、福島の酒蔵に生まれ、東京で10年蕎麦屋をした後、自然環境を求めてこの地で開業しました。自分で蕎麦をつくり、子育てしながら地元に溶け込んでいました。
岐阜県郡上市白鳥町の石徹白が、注目されています。白山の南麓で、古くは宿坊で栄えましたが、今は限界集落になっていました。そこに服飾家のHさんが岐阜市から移住して、伝統の草木染の「たっけ」を復活させました。夫は、東大大学院で都市工学を学んだ、地域づくり専門家です。集落にあった水流式水力発電を再生して黒字にしました。夫妻の活動で、集落は活気づき、移住者が増えています。自分たちの生き方を、自分たちで模索して見つけたのです。地に足の着いた「幸せな暮らし」が、ここにありました。「了」
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