小林達雄著、徳間書店、2018年4月刊 著者は、1937年新潟県生まれ、国学院大学大学院で博士(歴史学)、東京都教育庁文化課、文化庁文化財調査官を経て、国学院大学文学部教授。現在は名誉教授。新潟県歴史博物館名誉館長を務める、縄文文化研究の第一人者です。著書に「縄文土器の研究」(小学館)、「縄文人の世界」(朝日選書)、「縄文人追跡」(日本経済新聞社)、「縄文人の思考」(ちくま新書)。編著に「縄文土器大観」全4巻(小学館)など多数があります。
日本文化は今、世界的に注目されています。ほかのどの文化とも違った、独自性があるからです。それは欧米や大陸の国々にない、特殊な長い歴史を持っていたためでした。
ヒトは、類人猿の仲間から分離独立して、二足歩行で活発な動きを展開しました。自由になった両手は、腦の発達を促進し、考えるヒトとしての主体性を確立します。自然の中で、動物と同じように食糧を求めて遊動生活をしながら、20万年前に、まず「旧石器時代」を迎えました。その後、技術的な進歩を重ねて、革命的な「農耕・牧畜」を開発し、「新石器時代」に突入します。今から約1万2千年前のメソポタミアで定住が始まり、8千年前ころには、インドやエジプトなど世界各地でも、新しい時代が展開しました。
日本列島でも、氷河期が終わりかけていた3万年前には、すでに「旧石器時代」の歴史がありました。ところが約1万5千年前に、突然、それまでどこにもなかった「土器の製作と利用」が始まったのです。それはまさに最大級の歴史的瞬間でした。土器の製作には、粘土の精選から成型、乾燥、焼成まで、膨大な労力と技術の蓄積が必要です。遊動的な生活では、決して出来ません。定住するムラの生活で、はじめて可能になったのです。
大陸の、「農耕・牧畜」という、ノラ(野良)の開拓による定住とは大きく違って、日本列島では「狩猟・漁労・採集」によって、定住を達成しました。人工的空間としてのムラの外側には、自然空間のハラ(原)や、ヤマ(山)があって、自然資源の宝庫として縄文人の暮らしを支えました。自然と共感・共生する、「縄文姿勢方針」があったのです。
ムラの生活で言葉が生まれて、自然への畏怖は、さまざまなモニュメントをつくり、土器には非実用的な装飾を施しました。火炎土器はその象徴です。単なるデザインではない、彼らの世界観や物語性を示す、一貫したきまりがありました。縄文土器は世界で最も古く、漆の技術も大陸に先駆けていました。自然に関する豊富な知識は言葉に表れ、草木もものを言います。自然の音を聴くことから、日本語特有のオノマトベ(擬音語、擬声語、擬態語)が生まれました。これは現代のマンガの吹き出しにも生きています。
言葉があれば、抽象的な観念の世界も広がります。縄文時代は1万年以上も続きました。その縄文文化的遺伝子は、言葉によって継承されてきました。日本語は、弥生時代に形成されたという説がありますが、とんでもない。日本語の基盤をつくった、1万年の重みは絶大なのです。縄文時代の生活は、現代よりも豊かでした。食事のための労働時間は1日2~3時間で、充分余裕がありました。火炎土器や、ヒスイの加工でわかります。自然に共感、共生した縄文人の心は、現代に生きる大きなヒントになることでしょう。「了」
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