落合淳思著、角川新書、2024年10月刊 著者は1974年、愛知県生まれで、立命館大学大学院文学研究科史学専攻した博士(文学)。現在は、立命館大学白川静記念東洋文学文化研究所客員研究員。専門は、甲骨文字と殷代史です。主な著書に、「甲骨文字辞典」(朋友書店)、「甲骨文字の読み方」(講談社新書)、「古代中国 説話と真相」(筑摩選書)など多数があります。
漢字の部首は、現在、小学校の国語の授業で教育課程に定められていますが、あまり意識することはないようです。しかし、歴史的にみれば、古代世界の縮図でもありました。
例えば、今ではわかりにくい「横」は、「木」が部首であること、「虹」の部首が「虫」であることなどには、それぞれの歴史がありました。現在では、214種類の部首がありますが、本書ではその成り立ちや意味、歴史的な変化を、わかりやすく紹介しています。
最古の漢字の起源は、殷王朝の後期(BC13~11世紀)につくられた、甲骨文字とされています。甲骨文字の段階で、漢字はすでに文字体形として整い、後の時代の部首の形もかなり出現していました。例えば「休」は、人(イ)が「木」にもたれています。
殷王朝が滅亡すると、周が興り、次いで春秋戦国時代に入ります。法律が整備され、官僚制が発達し、各種の思想が出て、抽象的な概念が生まれました。秦始皇帝が国土を統一し、支配の一環として、字形を統一しました。それが篆書で、漢字のもとになりました。
漢字には、象形文字、指事文字、会意文字、形声文字の4種あり、「説分解学」の著者許慎が、「部首」を定義して、「字素」と「意符」(声符など)を基準としました。
「魚」は、魚や、鱗などの部分を現す部首ですが、「鯨」、「鰐」、「蝦」など魚類以外にも使われました。右側が(ケイ)、(ガク)、(カ)の声府です。日本で意味が変わったものもあり、「鮮」は、本来は(生臭い)の意味でした。臭みのある羊肉と合わせたのです。
「虫」は、殷代では蛇を上から見た形で、本来は毒蛇の意味でした。周代に、哺乳類、鳥類、魚類を除いた、動物全般に使いました。「蛙」、「虻」では、それぞれ(ケイ)、(ボウ)が声符です。「虹」は、殷代に蛇神とされ、(コウ)が声符の形成文字になりました。
「木」は、立木を表していました。部首としては木の種類、「枯」など、木の状態にも使います。木材は古くから使われたので、「板」、や「枕」などには、(バン)、(チン)の声符をつけました。「横」は、門に横向きにかけた、木製の「閂」のことでした。「検」は、竹簡を束ねて封印する木札で、「木」が意符になり、転じて「調べる」になりました。
「草冠」は、草の象形です。木でない植物の呼び名として広く使われました。「苦」は、苦みのある植物が元でしたが、派生して(苦しい)になりました。「英」は、(央)が声符で、本来は花房を指し、そこから(美しい)となり、(優れる)の意味になりました。
「竹」は、竹や竹製品の部首として、「節」や「笛」など、冠に多く使われています。
「竹簡」は「書簡」になり、安価だったので「簡素」や「簡単」になりました。「等」は、竹簡の長さを揃えることが原義です。「著」は、「箸」から独立した異体文字でした。
部首を知ると、漢字に親しむと同時に、人間社会の成り立ちにも通じるのです。「了」
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