伊藤 孝著、中公新書、2024年4月刊、 著者は1964年、宮城県生まれ、山形大学理学愚地球科学科卒、筑波大学大学院地球科学研究科博士課程を修了。博士(理学)。現在は茨城大学教育学部教授、茨城県地域気候変動適応センター運営委員です。専門は、地質学、鉱床学、地学教育。NHK高校講座の「地学」講師で、共著に「物質科学入門」(朝倉書店)などがあります。
大昔、日本列島はユーラシア大陸と地続きでした。現在の日本列島の土台は、大陸の東の端で、数億年の時間をかけて様々な地球科学的プロセスによってつくられ、約2500万年前、大陸から独立を始めて、約1500万年前に、ほぼ現在の位置に収まりました。
この列島に現生人類が移り住んだのは、少なくとも3,8万年前からと言われています。約2万年前の最終氷期の最盛期には、海面が現在よりも―125mに低下しました。北海道、樺太は大陸とつながり、本州、四国、九州はひとつの陸地でした。その後、急速に海面は上昇し、約7千年前には現在とほぼ同じになり、その後は安定して、現在の列島の形になっています。この定常化は、住民の日々の暮らしにとって、実に幸運なことでした。
日本の降水量は、世界平均を超えています。年間を通じて雨が降り、保水力のある森が豊かな景観となっています。しかし列島にはもう一つの水がありました。プレートが海底を移動して、海溝に沈み込むまでに、様々な場面で水を取り込んでいます。プレートが沈むと、その深さに応じて圧力がかかり、温度も上昇します。一部は放出されて温泉になり、大方は鉱物に水酸基として取り込まれ、マントルをつくる岩石を溶かし、密度の小さいマグマを生成します。そのマグマ溜まりが上昇して地上に出ると火山になるのです。列島は、上からも下からも、豊富な水が供給されていました。これは特異なことでした。
列島はその位置から、偏西風帯にあります。風上のチベット高原の影響に加えてコリオリの力も働き、温水プールのような太平洋では台風が襲来し、強力な黒潮と、繊細な対馬海流の影響も個性的です。農業や植生だけでなく、岩石の風化、鉱床をも生成しました。
列島の植生は実に豊かです。幕末に来日した西欧人を驚かせました。この時代は、森がかなり荒廃していましたが。それでも各地には、厳格に守られた森があったのです。野生のヤギやヒツジがいなかったのも幸いでした。大陸分離後、新しい岩石の風化・寝食によって豊かな土壌が生まれ、氷期でも氷河に削られず、肥えた土壌が温存されました。
列島の大陸分離前夜、淡水に植物遺骸が堆積し、砂岩や泥岩に覆われて、高圧・高温のもとで石炭層が生成され、列島に埋蔵されました。石炭紀から2億年遅れてのことです。また分離時に海中の珪藻が地層に取り込まれて石油に姿を変え、日本海側の油田になりました。鉄資源では、地球規模の縞状鉄鉱層が、6憶年前に沈殿が終了したため。新しい列島では鉄の生成はなく、風化途中の花崗岩に僅かに含まれた真砂砂鉄、赤目砂鉄による「たたら製鉄」が行われました。素性の良い磁鉄鉱は少量でも、品質は優秀でした。
金鉱床では、縄文人は金には関心が薄く、人々は奈良大仏で、はじめてその価値に目覚めました。大陸時に形成された各地の浅熱水性金鉱床は、列島への選別だったのです。「了」
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