山崎晃司著、東京大学出版会、2017年8月刊 著者は、1961年東京都生まれ、東京農工大学農学部一般教育部研究生修了。茨城県自然博物館を経て、現在は東京農工大学地域環境科学部教授。博士(農学)。専門は、動物生態学、保全生態学。著書には「日本のクマ—ヒグマとツキノワグマの生物学」共編(東京大学出版会)、「図解知識ゼロからの林業入門」分担執筆(家の光協会)などがあります。
近年、ツキノワグマの大量出没が続き、人々との間に深刻な問題を引き起こしています。原因はさまざまですが、私たちはツキノワグマと、どのように付き合っていったらよいのでしょうか。本書は、日本のツキノワグマと、それを取り巻く過去、現在、未来について、具体的な事例を挙げながら、一般向けの啓蒙書として書き下ろしたものです。
クマ類の祖先は、約2千万年前にヨーロッパに出現しました。食肉類でありながら雑食性でもあり、北半球に分布を拡大しました。ツキノワグマは、胸に半月状の白い斑紋があり、日本に渡来したのは、海水面が低下した50万~30万年前とみられています。
ツキノワグマは、上半身が強く、巧みに木登りをします。体重は,5 ~8 月の調査では、オスの成獣で60~80kg、メスの成獣では40~60kgでしたが、秋にはもっと太ります。性的に成熟する年齢は、4歳程度でオスがやや早い。メスは冬眠中に1~2頭を出産します。野生の増加率は、兵庫県の調査で16,3%でした。同県では、イノシシが66,5%、ニホンジカ20,0%でしたから、かなり低く、捕獲圧がかかると危機的状況になるのです。寿命について、著者らの足尾の調査では、オスで17才、メスでは23才が最高齢でした。
ツキノワグマの繁殖戦略は、遅い繁殖開始、低い繁殖率、長寿命で、増加率が低い特徴があり、シカやイノシシとは大きく違います。群を作らず、縄張りも持ちません。昼行性が基本で、植物質を主に食べています。春には草木の新芽、夏には液果のほかにハチやアリなどの社会性昆虫を好み、秋にはブナやコナラ属の堅果を飽食します。しかし、その堅果は種としての防衛戦略で、豊作と不作を繰り返します。そこでツキノワグマは、6~8月にスギ、ヒノキ、カラマツなどの針葉樹の形成層を剥いで食べます。クマ剥ぎと呼ばれ、堅果類が不作のときの林業被害は大きく、人里にまで出没するのです。冬眠明けの体力回復も大問題で、雪で斃死したシカはご馳走でした。コグマを食べることさえあります。
近年、ツキノワグマの人里への出没が常態化しています。分布域が急速に拡大して、捕獲数も激増しました。里山の過疎化・高齢化による人間活動の低下が、多くの野生動物の進出を容易にしたのです。狩猟者も減少して、生息数も増えていますが、実態はよくわかっていません。環境省の調査も、既存情報と階層ベイズ法などで精度は低く、1万~9万頭まで、大きく変動しています。著者は慎重ですが、たぶん5万頭前後とみられます。
ツキノワグマの植物種子拡大効果も確認されています。今後のツキノワグマの保護・管理は、地域ごとの動態調査による、集団の安定的維持を目指すことでしょう。農水産業・林業の被害状況、人々の安全確保を踏まえた、行政と教育機関による協業が、強く求められています。著者は、日本クマネットワークを推して、熱い想いを語っていました。「了」
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