「コーヒーで読み解くSDGs」—いま、私たちができること–2024年5月1日 吉澤有介-

ホセ・川島良彰、池本幸生、山下加夏共著、ポプラ新書、2023年2月刊
著者のホセ・川島は高校卒業後、エルサルバドル共和国国立コーヒー研究所に留学、大手コーヒーメーカーでジャマイカ、ハワイ、スマトラの農園開発、マダカスカルなどのコーヒー産業を復活させ、2007年から日本サステナブルコーヒー協会を設立して理事長。
池本は東京大学名誉教授です。京都大学経済学部卒、アジア経済研究所、タイのチョラロンコン大学、京都大学東南アジア研究センター、東京大学登用文化研究所などを歴任しました。山下は慶應義塾大学卒、ケンブリッジ大学で修士、外資系企業を経て、国際NGOコンサベーション・インターナショナルに勤務して、途上国の支援活動を行っています。
日本はEU、アメリカ、ブラジルに次ぐ、世界第4位のコーヒー消費国です。コーヒーは熱帯地域で生産され、その大半を担うのは開発途上国で、世界有数の産業になっています。そのためコーヒー市場の価格は、世界の経済、環境、社会問題に直結しているのです。1976年から2022年にかけてのコーヒーの国際価格は、激しい変動を繰り返していました。8~9年ごとにブラジルが、旱魃や霜害で不作になったからです。ところが1997年にアジア通貨危機が起こると、コーヒーは突然高騰しました。欧米の投機資金が大量の空売りを仕掛けたからです。このころすでに参入していたベトナムには追い風になりましたがそれも束の間、その後新規参入が続いてたちまち供給過多となり、2001年10月に一挙に暴落しました。投機資金が作り出した誤ったシグナルが、世界のコーヒー生産者を苦しめたのです。この時のコーヒー価格は、何と1ポンド42セントまで低下していました。
あなたの飲むコーヒー330円(生豆12,5g)は、最近の国際価格1ポンド1ドルとして計算しても、生豆では3,25円、約1%に過ぎません。原価率1%という極端な低さなのです。一般的に料理の原価率は20~30%、サワー系ドリンクでも10~20%ですから、コーヒーの価格はあまりにも異常です。輸入商社は安値買い付けに奔走し、生産者は品質よりもコストを優先しました。SDGsにいう、消費者の責任が問われる事態になっています。
コーヒーは、世界中で約2500万所帯の農家が作っています。コーヒー価格の低迷は、飢餓をもたらしました。とくにコーヒー発祥の地であるエチオピアは深刻でした。コーヒー生産農家の低所得改善が急務なのです。コロンビアでは、内戦の危機を乗り越え、果樹園を併設し、学校をつくって住居環境を改善し、さらに自然保護にも力を入れ、農園経営を軌道に乗せました。コーヒーの品質向上による価格の改善を目指しています。コスタリカでは畜産業を拡大して、森林破壊が進みましたが、自然保護と両立可能な産業として、コーヒー生産に立ち戻り、中米の環境先進国になりました。開発途上国を支えるコーヒー生産の技術革新も実用化しつつあります。各国の品質向上へのプロジェクトも活発です。
コーヒーはグローバルな商品でありながら、生産地が遠いので、先進国の消費者は生産者の実状を殆ど知りません。コーヒー生産の持続可能性のためには、コーヒーを通じて私たちも、SDGsのゴールを目指して、生産国とともに貢献してゆくことなのです。「了」

カテゴリー: サロンの話題 タグ: , , パーマリンク