小林雅一著、ダイヤモンド社、2023年7月刊
著者は、1963年、群馬県生まれの作家・ジャーナリスト。東京大学理学部物理学科卒、同大学院理学系研究科を修了してボストン大学に留学、マスコミ論を専攻しました。ニューヨークで新聞社に勤務、慶應義塾大学を経て、現職はKDDI総合研究所リサーチフェロー、情報セキュリテイ大学院大学客員准教授です。著書には、「ゼロからわかる量子コンピュータ」、「AIの衝撃~人工知能は人類の敵か」(講談社新書)など多数があります。
AIは今、次のフェースに突入しつつあります。人工知能の「最後にして最大の壁」とされていた自然言語処理が、鮮やかに実現したからです。AIは、私たちと自然に対話し、リクエストすれば論文や小説、脚本を書き、絵画やイラスト、マンガ、音楽、さらにはアニメや映画まで創作し、人間のクリエイテブな領域にまで、進出しようとしているのです
このような新種の人工知能は、一般に「生成AI」と呼ばれています。2022年11月に登場したChatGPTは衝撃的でした。その開発元であるOpenAI社は2015年に、イーロン・マスク、ピーター・テイール、サム・アルトマンらが出資した研究機関でした。設立当初は、人類全体に寄与することを目的とした非営利団体でしたが、やがてアルトマンが初代CEOになると営利団体に転じて、事実上のスタートアップ企業になりました。マイクロソフトなどから、巨額の出資を受けて、先端AIの研究開発を促進したのです。
著者は実際にChatGPTを使ってみました。「再生可能エネルギーとは何ですか」、と「その長所と短所は?」と質問したら、ほぼ大学生並みの回答が得られました。特に後の設問に直答したのは驚きでした。つまり、前問の内容を覚えていたのです。また「愛と憎しみは表裏一体でしょうか」という哲学的質問にも、かなりのレベルで答えてきました。ただし時には怪しい答えもありました。「経済学の最新理論を解説してください」という設問には、全く架空の理論や学説を挙げました。AIは「幻覚」をみることがあるのです。
また「事業計画書」を瞬時に作成しましたが、物理や数学の問題は苦手で、小学生レベルを間違いました。ユーザーの使い勝手を優先して、計算能力を犠牲にしていたのです。
アルトマンは、AIに一番先に仕事を奪われるのは頭脳労働者で、肉体労働はAIでは代替えが困難だといいました。これは「モラベックのパラドックス」と呼ばれています。
生成AIは、教育現場や企業に大きく影響しました。著作権やセキュリテテイへの対応に追われることになったのです。仕事に活用するには、設問の仕方で回答の質がかなり変わってきます。そこで「プロンプト・エンジニア」という職業まで生まれました。
2023年春、ローマ教皇の画像が全世界に拡散しました。教皇がカソリックの正装でなく、ダウンのコートを着て現れ、世界を驚かせたのです。これはシカゴ在住の31歳の建設労働者が作った、画像生成AIによるフェイクでしたが、爆発的反響を呼びました。画像生成がブームとなり、生成AIは、テキスト系も法的規制が大問題となってきましたが、
著者は、生成AIは史上最速にして最大の革命を人類にもたらすと確信しています。「了」
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