「化石に眠るDNA」—絶滅動物は復活するか—2024年4月5日 吉澤有介

更科 功著、中公新書、2024年2月刊    著者は、おなじみの分子古生物学者です。1961年東京都生まれ、東京大学教養学部基礎科学科卒。民間企業を経て東京大学大学院理学系研究科で博士(理学)。現在は武蔵野美術大学教授です。著書は多く、「化石の分子生物学」(講談社新書)、「爆発的進化論」(新潮新書)、「禁断の進化史」(NHK出版新書)などがあり、すでにいくつかを紹介しました。
DNAには不思議な魅力があります。ただの化学物質なのに、完全な生命体と連続的につながっているので、どんな場所でもDNAが見つかれば、そのDNAを基に生命を創れるかもしれない。化石の中の古代DNAから絶滅種を復活させる研究が続いています。
しかし古代DNAを扱うときには、現生生物のDNAを扱うときにはない、大きな悩みがありました。化石は長い間地中に埋もれているので、その間に菌類や細菌が付着してそれらのDNAが混在し、発掘した人間のDNAも混入しやすいのです。何しろDNAは至る所に存在しています。化石から取り出したDNAが、確かにその化石のものか、真偽性が厳しく問われるのです。本書ではその確認のさまざまな技法を取り上げていました。
古代DNAの研究は、1984年のクアッガというウマから始まりました。南アフリカにいた、体の前半分に縞模様があるウマで、乱獲のため絶滅したのです。ヒグチらは、タンパク質分解酵素などを使って、ついに世界初の古代DNAの塩基配列を決定しました。サバンナシマウマの亜種とわかり、2005年にはヘンリーという子ウマが生まれています。
小説「ジュラシック・パーク」が1990年に出版され、映画とともに大きな話題になりました。その琥珀のアイデアを出したのは、アメリカの作家ペリグリーノでした。論文を専門誌ではなく、大衆向け科学・SF雑誌「オムニ」に投稿したのです。確かに琥珀は生物体の保存に適した物質でした。閉じ込められた蚊は、細胞とその構造までよく保存されていました。蚊は細い針の口で、赤血球を壊さずにうまく消化管に運び、すぐには消化せずに溜めておき、3~5日かけてゆっくりと消化します。血液からのDNA回収も可能だったのです。本気で取り掛かる研究者が現れ、多くの論文が出ました。しかし再現実験は極めて杜撰で、その大半は怪しいものでした、古代DNA研究の信用回復が待たれたのです。
その復権を果たしたのが、1997年のペーボらの、ネアンデルタール人のミトコンドリアDNAの解明でした。PCRで増幅した塩基配列の再現性は確かでした。古代DNA研究が、恐竜や琥珀の長いトンネルを抜けた、記念碑的研究となったのです。ヒトとネアンデルタール人との交雑の証明も見事でした。古代DNA研究は飛躍的に進展し、解析可能な時代も広がりつつあります。約100万年前のマンモスの古代DNAが報告されました。
遺伝子編集によるマンモス復活研究がスタートしました。重要な特性を持つ遺伝子に注目して、アジアゾウのゲノムに組み込むのです。クリスパーキャス9が役立ちました。もし復活したら、「更新世パーク」で、シベリアの環境改善を目指します。永久凍土を守るには、マンモスの機動力が有効なのです。なお絶滅種の復元よりも、絶滅危惧種を救うほうが、はるかに重要とする考えがあります。人類自身が絶滅種かも知れないからです。「了」

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