「超・長寿の秘密」—110歳まで生きるには何が必要か– 2023年12月13日 吉澤有介

伊藤 裕著、祥伝社新書、2019年6月刊   著者は、1957年京都市生まれ、京都大学医学部卒、同大学院医学研究科博士課程を修了して、ハーバード大学、京都大学大学院助教授を経て、現在は慶應義塾大学医学部教授。同百寿総合研究センター副センタ―長です。専門は、内分泌学、糖尿病、抗加齢医学。世界ではじめて「メタボリックドミノ」を提唱しました。「臓器の時間」などの著書があります。
日本では100歳以上の人が6万人を超え、なお増え続けています。しかし110歳以上の方は、146人と極端に少ない。100歳と110歳の間に「大きな壁」がありました。本書では、この壁を乗り越えて、110歳以上のスーパーセンテナリアン(スーパーS)として、元気に生きる秘訣を探っています。それは、血液中の炎症の度合いを示す「高感度CRP」(インタイーロイキンなど)がたいへん低いことでした。さまざまな臓器で起こる慢性疾患を、しっかり抑え込んでいたのです。これは「腸」が丈夫で、「腸内細菌」が若いということでした。
「スーパーS」の方々は、とにかく楽しそうです。健康であっても幸せとは限りません。著者は、「健康寿命」よりも、「幸福寿命」を延ばしたい。「スーパーS」がまさにそうでした。そのカギはやはり「遺伝子」にありました。「遺伝子」は、両親から受け継ぎますが、兄弟でも違います。慶応の安藤寿康教授は、4万組の双子の研究からIQの相関は、遺伝54%、共有環境19%、非共有環境27%の寄与率としました。半分が環境でした。そこには本人の努力が含まれています。つまり病気の遺伝子も才能も、変えてゆくことができるのです。
ヒトゲノム計画で、ヒトの遺伝子の数は25000個程度と、意外に少ないことがわかりました。しかもそのゲノムのうち、直接間接にタンパク質をつくるDNAは、せいぜい5%でした。残りの95%は、はじめ無用のジャンクとみられていましたが、実は遺伝子の使われ方を調整していることがわかってきました。それが病気になりやすい原因になっていたのです。
DNAは同じでも、遺伝子の使われ方次第で、「形質」が変わり、それが伝わる「エピゲノム現象」は、体質に大きく影響しています。生活環境で経験して得た情報は、親からもらった「遺伝子」の上にどんどん書き込まれてゆき、過去の記憶が未来を変えてゆくのです。
血液型は、完全に遺伝ですが、その遺伝子は一つだけなので、性格判断はまずムリでしょう。しかし星座占いは別です。生物は誕生以来、太陽光の周期に強く影響されてきました。「時計遺伝子」が全身の臓器を制御しています。星座と医学が結びつきました。乙女座は「腸」、獅子座は「心臓」双子座は「肺」、蟹座には「胃」が割り当てられました。がんの英語はカニ(cancer)で、胃がんの多さと合います。星座占いは、注目してもよいでしょう。
エピゲノムは、臓器にも記憶を残しています。高血圧のラットに、高塩分食を与え続けると、普通食に戻したあとも高血圧になりました。「塩分メモリー」が腎臓に残っていました。心臓移植を受けた女性が、自動車事故を起こす悪夢に悩まされました。実はその心臓は、同じ日に自動車事故で脳死になった女性のものでした。「臓器の記憶」があったのです。臓器に良い記憶を残す方法がありました。「断食」です。著者はさらに、超・長寿の源泉として、「ハツラツ腦」、「ツナガル腦」、「ワクワク腦」の三つを挙げています。好著でした。「了」

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