新潮社編、新潮文庫、平成23年9月刊 本書は今秋、文化勲章を受章した歴史家・塩野七生さんの大著「ローマ人の物語」文庫本全43巻のスペシャル・ガイドブック2007年・新潮社刊を、一冊の写真文庫本にまとめたものです。文庫版ながら上質の光沢紙を使った美麗な写真集と簡潔な文章はずっしりと重く、素晴らしい出来栄えでした。原著15巻の大著のあらましを知るとともに、原著を読み返す絶好の手引きになっています。巻末の、ただ一人で大事業を成し遂げた原著者の、貴重なロング・インタビュー「なぜローマ人は寛容だったのか」も、読み応えがありました。それだけに本書は要約には馴染みません。ここではその一端だけをご紹介することにしましょう。
都市国家ローマは、なぜ地中海の覇権を握ることができたのでしょうか。伝承によれば、数奇な運命のもとで18才のロムルスが、3000人のラテン人とともに、BC753年イタリア半島南部の、テヴェレ河沿いの七つの丘に住み着いて建国しました。まず近隣のサビーニ族を襲って同化させ、勢力を拡大しました。この時すでに敗者にも完全な市民権を与え、その長老たちを元老院に迎えています。敗者でさえも自分たちに同化させる、このやり方はローマの伝統となりました。やがて共和制に変わりますが、襲来したケルト族に大敗し、それを機に平民や同盟部族からも人材を登用することで、国力を回復してイタリア半島を統一します。そこでカルタゴと地中海の覇権を争うことになりました。あのポエニ戦役です。
原著はハンニバル戦記として、カンネ、ザマなどの戦いを詳細かつ臨場感一杯に展開しましたが、本書では英雄たちの最後を静かに語っています。覇権を握ったローマは、やがて勝者の混迷を迎えますが、元老院を抑えて帝政をめざした天才カエサルの登場で、共和制が終わり、ローマは世界帝国へと飛躍しました。原著者はカエサルに深い愛情を注いでいます。
カエサルの遺志を継いだオクタヴィアヌスは、政争を制して元老院を操り、巧みに帝政を実現しました。しかしその後の4人の皇帝は、庶民から厳しく批判されます。16才で即位したネロも、初めはギリシャ文化に傾倒し、哲学者セネカの補佐で実績を挙げて、元老院からも市民からも歓迎されました。しかしセネカの引退で、直言するものがいなくなり、私生活が乱れて悪評が高まります。そこにローマの大火が起こりました。疑われたネロは、キリスト教徒に罪を着せ、数百人を公開処刑します。しかし元老院に責められて自死しました。
次の皇帝も異民族の侵入もあり、一年のうちに3人が死んで、ローマに危機が迫りました。ここは健全な常識を持つヴェスパシアヌスと、誠実なテイトウスが何とか支えます。
ところがヴェスヴィオス火山が噴火して、ポンペイが壊滅しました。疫病も流行します。
それでもコロッセウムが完成して、皇帝は市民と交流しました。ローマ人は、自由と秩序をバランスよく保ち、次の五賢帝の世紀を迎えます。平和と繁栄を謳歌した黄金の世紀です。
街道、橋、神殿、広場、劇場、競技場、公共浴場、水道などのインフラが次々に建設されました。それらは現在も多くが遺跡として残っています。本書では、その写真が見事でした。イングランド北部のハドリアヌスの防壁も圧巻です。しかし、帝国の終焉は確実に近づいていました。3世紀以降の兄弟による分割統治も空しく、ローマ世界は終わったのです。「了」
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