藤原晴彦著、光文社新書、2023年5月刊
著者は1957年、兵庫県の生まれで、東京大学大学院理学系研究科で生物化学を専攻した理学博士です。国立予防衛生研究所(現・国立感染症研究所)、東京大学理学部生物学科動物学教室講師、ワシントン大学を経て、東京大学大学院新領域創生科学研究科先端生命科学専攻助教授・教授を歴任しました。専門は「擬態・変態・染色体」。「似せて騙す擬態の不思議な世界」(化学同人)、「だましのテクニックの進化」(オーム社)などの著書があります。
スーパージーンは、最近になって世界中の遺伝学者や進化生物学者の大きな話題になっています。しかし一般には生物学者も含めて、まだ殆ど知られていません。生物には、13年や17年周期で現れる素数ゼミ、殺人アリと呼ばれるヒアリの社会性、昆虫の擬態、特殊の繁殖行動など、まだ解明できない多くの不思議な現象がみられます。それらが最近ようやく超遺伝子(スーパージーン)によって制御されていることが分かってきたのです。
これらの現象には、150年前のダーウィンやウオレスが、すでに注目していました。ウオレスは、同僚のベイツとともに南米で昆虫を採集し、無毒の蝶が毒蝶に擬態して、捕食者の鳥を騙すことを見つけました。しかも系統的に離れた蝶までが、擬態していたのです。
ちょうど同じ頃、メンデルが遺伝の法則を発見していました。しかし、その業績は世に知られず、再発見されたのは35年後のことでした。多くの遺伝子が関わると、親の形質は減数分裂と組み換えで中間型が現れます。ところがウオレスがみたナガサキアゲハの擬態するメスは、どの世代であっても、いつも同じ模様で、中間型はいません。通常の遺伝法則と違うのです。形態だけでなく行動様式まで、擬態が確実に伝わっていました。これは遺伝子がバラバラでなく、セットで働いているのではないか。その根拠が求められていました。
ここに「現代統計学の創始者」であるフィッシャーが、擬態では複数の遺伝子があたかも一つの遺伝子のように働いて組み換えが抑制されるとして、「自然選択の遺伝学的理論」を著し、斬新な「スーパージーン仮説」を提唱しました。100年ほど前のことです。複雑な現象が後世代に伝わるためには、スーパージーンの構造が変化しないこと、そのためには複数のジーン(遺伝子)が、染色体の一か所に集まる必要があるとしたのです。さらにウクライナ生まれのドブジャンスキーは、相同染色体の一部が逆転する染色体逆位が、遺伝子組み換えを抑制しており、スーパージーン構造が維持されることを発見して、仮説を補強しました。
この仮説は、全ゲノム解読によって、大きく展開します。同じ種のなかで異なる形質があるとき、ゲノム配列を比較し、そこに逆位があれば種内に異なるタイプを生み出すスーパージェーンかも知れないと推測できます。こうしてヒアリやエリマキシギなど、昆虫、植物、魚の多くの事例が発見されたのです。ヒトについても、全ゲノムの解読をきっかけに様々な探索が行われています。とくに注目されたのは、特殊な難病の遺伝についてでした。
著者は、早くから昆虫の擬態と変態に取り組んできました。アゲハは孵化して4齢までは鳥の糞に擬態し、5齢になると柑橘類の葉に擬態します。過酷な自然界を生きのびる知恵でした。スーパージーンによる進化と遺伝の謎の解明は、なおも
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