山岸明彦著 集英社インターナショナル新書、2023年4月刊
著者は1953年、福井県生まれの分子生物学者です。東京大学大学院理学系研究科で理学博士、主な研究分野は極限環境生物、生命の起源と進化などで、宇宙生物学「たんぽぽ計画」の代表を務めました。現在は、東京薬科大学名誉教授です。主な著書に「生命はいつ、どこで、どのように生まれたのか」、「討論!生命誕生の謎」(ともに集英社)などがあります。
本書では、宇宙のはじまり、元素のはじまり、地球のはじまり、生命のはじまり、生命の進化と人類の文明史までを、明快に読み解いています。そのカギは元素にありました。
宇宙のインフレーション理論によれば、宇宙は無から誕生しました。その宇宙は相転移を起こして、ビッグバンに移行し、急膨張しながら温度を下げてゆきます。初期の宇宙に存在したエネルギーは、電磁波のγ線でした。物質のない「光の宇宙」です。やがて素粒子が誕生し、電子と陽子が生まれました。高温のプラズマ状態で、水素原子が生まれ、核融合反応が起きて、宇宙誕生から10憶年で第一世代の恒星が誕生しました。その核融合は水素からヘリュウム、炭素、鉄へと進み、寿命が尽きると超新星爆発を起こし、様々な元素を放出しました。それらを含む分子雲が集まると核融合を始め、第二世代の恒星が生まれました。その周囲に残された微粒子やガスも渦を巻いて集まり、惑星になりました。地球の誕生です。
初めはマグマに覆われた地球は、今から24憶年前に突然全球凍結し、火山活動で融解して地殻や海を形成しましたが、その前に原核生物シアノバクテリアが誕生し、光合成で酸素を発生し始めていました。全球凍結の要因に、大気中の二酸化炭素の減少があったのです。
生命の誕生を遡ると、現在生きているすべての生物(微生物、植物、動物)は、40憶年以上も前の、コモノートと呼ばれる一つの共通祖先に行き着きます。その「最初の生命」の主成分は水で、宇宙でつくられて地球にたどり着きました。ほかの成分はどこからきたのでしょうか。微生物もアミノ酸や糖などからタンパク質をつくることで増殖しています。
生物の定義はまだ確定していませんが、増殖は重要な特性です。タンパク質をつくるにはDNAにある遺伝情報を使います。しかしDNAはタンパク質がなければDNAを複製できません。ニワトリとタマゴのパラドックスです。ところがRNAは遺伝情報を持ち、RNAの複製もできます。RNAだけで生命が生まれるのです。そのRNA単量体は、隕石にもありましたが、地上でもできることがわかってきました。200個も集まればRNA細胞になります。そのためには「乾燥」が必要とわかりました。とすれば海中では無理です。これまでの「生命は海底熱水噴出孔で誕生した」説は成り立ちません。「最初の生命はRNA細胞で、生命は陸上で誕生した」可能性が高いのです。高校の教科書は書き換えられることでしょう。
RNAは炭素、水素、酸素、窒素、リンから構成されています。これらの元素は水分子と同じく、太陽や惑星ができたときに塊となって地球にやってきました。ランダムのつながりの中から、たまたま塩基がある配列になり、活性のあるリボザイムとなって複製を始め、進化してゆきました。脂質膜ができて、古細菌から真核生物が誕生しました。生命進化は、ダーウィンの自然選択でほぼ説明できます。大量絶滅も含めて成り立つことでしょう。「了」
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