脱炭素ビジネスが世界経済を動かす
著者は、アメリカNY生まれ。京都大学文学部卒で産経新聞に入社。週刊ダイアモンドでエネルギー問題を担当した後、2016年アメリカの専門誌に参画、編集長となりました。
時代の転換点は、ある日突然にやってきます。その象徴的瞬間が、2020年10月7日に訪れました。エクソン石油の時価総額を、無名の再エネ企業が抜き去ったのです。あのエコソンをエネルギー界の王座から転落させたその相手は、誰も知らない地方の電力会社ネクステラ・エナジーで、この20年、風力や太陽光といった再エネで急伸した企業でした。
この異変は世界の各地でも起きています。イタリア、スペイン、デンマークなどでも、再エネ企業が、その国の石油のトップ企業を、時価総額で抜きました。著者は、それらエネルギー業界の新たな盟主となった企業を、「クリーン・ジャイアント」と呼んでいます。
「脱炭素」の動きは、すでに議論の段階を過ぎて、巨額のマネーが動く領域になっていました。5年以上前から欧州を中心に、政治、経済、金融システム、ライフスタイルまでが再構築されて世界各地に広がり、この機会をいち早く捉えた企業に、大きな可能性が生まれていたのです。しかし、かっての太陽光技術の開拓者、日本の存在感は全く消えていました。
パリ協定には中国が参加し、アメリカも戻りました。今世紀1,5℃を目指す「カーボンニュートラル」が、明確な世界の方向性となったのです。日本の参加はリミット寸前でした。
グリーン・ジャイアントの共通点は、政府の規制を賢く利用する、素早い行動力にありました。太陽光の主役は日本からドイツへ、そして中国に移りました。中国の世界シェアは7割に達し、コストは1kw当たり7,5 円相当を実現しています。風力についても中国メーカーは欧州を抜きました。今、再エネのフロンチェアは「海」にあります。デンマークの石油会社の手がけた「洋上風力発電」です。洋上風力は英国が拡大し、一気に世界トップに踊り出ました。しかしデンマークも譲りません。そのオーステッド社の時価総額は、日本の電力10社の合計を上回りました。現在の最先端の洋上風車は、高さ300 m、発電能力は1,2万kwにも達しています。これが100基も立ち並べば、火力や原発に匹敵できるのです。
2021年1月には自動車業界で、テスラが時価総額92兆円を記録し、トヨタやVWなど全世界の自動車メーカーの時価総額合計を超えました。テスラの販売台数は年間50万台、世界シェア1%しかありません。投資家の判断でした。まずスポーツカー「ロードスター」から出発したイーロン・マスクの目論見が当たったのです。充電インフラの構築も正解でした。それに「デイーゼルゲート」というVWの不正事件が転機となって、欧州のEVシフトに火がつきました。トヨタのHVはエコから外されたのです。豊田社長の弁明も空しく、EVにゆくか、燃料電池で自動車産業を守るのか、まさしく正念場となりました。EVでは、大市場を持つ中国が覇権を目指して、すでに中国版ステラNIOを誕生させています。
牛のゲップ(メタン)を止める、人口肉市場も拡大しています。商社や投資家は敏感です。日本の年金基金まで動いています。GAFAも本気で取り組みを開始しました。遅れをとった日本に、妙手はあるのでしょうか。著者は、アンモニア火力に期待を寄せていました。「了」