「対論!生命誕生の謎」山岸明彦・高井研 共著 2020年3月16日吉澤有介

集英社インターナショナル新書、2019年12月刊

著者の山岸さんは東京大学出身の分子生物学者で、2015年から国際宇宙ステーションで行われている「たんぽぽ計画」の代表です。高井さんは京都大学出身の微生物学者で、海洋研究開発機構(JAMSTEC)で活躍しています。本書では、地球生命の起源を巡って、全く異なる説を唱えるお二人が激論を展開しながら、生命の本質に迫ろうとしています。

まずは生命誕生のストーリーですが、地球ができたのは今から約46憶年前のことでした。地表はマグマが溶けたマグマオーシャンで、およそ44憶年前になってようやく温度が下がり、やがて水溜まりのような池ができ、それが海になってゆきました。約40憶年前になると、地表の岩盤の大変動が始まり、同時に地球最初の生命が誕生したとみられます。そのころのグリーンランドやカナダの岩石から、生物由来の炭素⒓の粒が発見されたからです。

遺伝子に注目しても、やはりその頃に現生生物の「共通祖先」が生まれたらしい。現在の地球上のすべての生物が、ほぼ共通する遺伝子や、タンパク質を生成する仕組みと、代謝を行うシステムを持っているので、一つの「共通祖先」から進化したとみられるのです。

しかしその生物が、一体どこから有機物を入手したかが問題でした。1969年にオーストラリアで発見された「マーチソン隕石」には、糖やアルコール化合物、各種アミノ酸が含まれており、「生命材料の宇宙起源説」が有力になりました。火星起源説もあり、その可能性が濃厚です。しかし、そこから複製機能までつくれたかどうか、単に代謝で増えただけではないか、地球ではできないのか。どこまで揃ったら生命といえるのか、議論が分かれました。

高井さんは、生命が存在する条件として、①エネルギー、②元素、③有機物、を挙げて、「地球最初の生命は、約40憶年前の深海の熱水噴出孔で誕生した」と主張します。理由は、そこにエネルギーが持続的に供給されているからでした。深海の熱水噴出孔では、高濃度の水素に、さまざまなエネルギー物質や元素を含むアルカリ性熱水が出ています。そこで無機物から原始的な代謝が起こり、長い時間をかけて脂質でできた膜と、タンパク質からなる酵素で自己再生するだけの「代謝型生物」が生まれ、その後新たに誕生した遺伝機能を持つ生命と融合して、現在の生命に進化したとみるのです。高井さんは、2003年「しんかい6500」で沖縄の水深1370mの海底の90℃の熱水から、後に「タカイ菌」と命名された微生物を発見しました。特殊な触媒反応で、無機物から有機物を合成し、その有機物をエネルギーとして利用していたのです。地球の菌で生命誕生の可能性を確認した世界初の発見でした。

一方、山岸さんは生命の条件を、①膜、②エネルギー、③情報を伝える核酸、を挙げました。誕生して間もない地球には宇宙から無数の小天体が降り注ぎました。冷えてくると水蒸気が水になり、火山活動も活発化して、海や大陸ができました。陸地には温泉が湧き、そこに宇宙からの有機物が溶け込み、乾燥と湿潤が何度も繰り返されました。有機物同士の脱水縮合が繰り返され、やがて自己複製できるRNAが誕生したといいます。それには乾燥が必須だったので、海中では起こりえない。ただ最初の生命が超好熱菌だったという点で、お二人は一致していました。その表現型ゆらぎが、次の世代の多様性をもたらしたのです。「了」

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