ブックマン社2019年7月刊 著者は、国立科学博物館標本資料センター・分子生物多様性研究資料センターのセンター長です。横浜国立大学教育学部地学科を出て、恐竜研究のため米イエール大学、英プリストル大学で学び、学位をとりました。恐竜に関する多くの著者があります。テレビでも皆さんおなじみでしょう。本書は、旅好き少年が偶然に恐竜と出会い、「恐竜博士」として研究生活を続けるに至った愉快な自伝的エッセイで、若い人たちへの良い指針になっています
著者は、小学生のころから一人旅が大好きでした。ごく自然に地理の先生になるつもりで、大学は地学科に進みました。ここで地質を学びながらカナダに1年間留学し、ロッキー山脈の微小化石の調査をして帰国すると、指導教授から「恐竜」の研究者になるよう勧められます。たまたまこの1980年代は、日本各地で恐竜の化石が出始めた時期でした。著者は、日本の恐竜学の夜明けとともに、研究者としてスタートすることになったのです。
さて、古生物学それも恐竜の研究をするには、多くの実績のある海外の大学で学ばなければなりません。著者は修士論文をアメリカで、博士論文をイギリスで書き上げます。とくにイェール大学のジョン・オストロム教授から大きな影響を受けました。教授は1970年代に「恐竜は恒温動物で、鳥に進化した」という衝撃的な論文を、はじめて発表していました。この説は、様々な検証で確かめられ、この年代が「恐竜ルネッサンス」となったのです。
著者は、日本で発見された小さな歯の化石を持っていましたが、たまたま次に訪れた大英博物館で、同じ形の化石に出会いました。イグアノドンの上顎の歯だったのです。日本にもイグアノドンがいたことが初めて証明されました。その後、同類のフクイサウルスが発見されています。その地層は、白亜紀前期の手取層群で、やがて全身骨格が復元されました。帰国して国立科学博物館に入り、古生物学者である恐竜博士として研究活動を開始します。
恐竜を研究する古生物学者の、研究スタイルはさまざまです。発掘調査で、新しい化石を見つける。他の動物の構造や動きと比べる比較解剖学。これまで発掘された化石をデータ解析するなどもあります。アメリカのオレゴン大学の学生に、テラノサウルスがしゃがんだ姿勢から立ち上がるプログラムをつくる宿題が出ました。ところが立ち上がれないことがわかったのです。頭が重くて膝が伸ばせません。ここで、これまで何の役にも立たないとされてきた短い前足を支えに使うと、立ち上がれるという結果になりました。これも恐竜学です。
日本の研究者たちも、前足の付き方、長い首を支える頸椎に発達した靭帯があること、鳥類に進化してゆく呼吸方法、大きな恐竜の抱卵姿勢、羽毛をつくる遺伝子など、多くの新しい発見をしました。北大の小林快次さんは、アラスカで恐竜の季節移動を重点調査中です。
著者はいま、恐竜博2019を特別展として展示しています。目玉は、テイラノサウルスよりも大きいスピノサウルスと、「むかわ竜」の全身骨格です。そこにもさまざまな苦労がありました。また恐竜が絶滅するに至った経過を、最新の研究をもとに展示しています。これは博物館の大きな役割で、多くの小学生が、鋭い質問をしてきます。現在、恐竜は1100種見つかっていますが、生息年代の長さからみたら、10万種以上はいたはずです。これからも多くの発見があることでしょう。本書は、恐竜学の魅力を存分に伝えてくれました。「了」