BREXITの最新事情 2018/8/11荒川英敏

ロンドン便り その173

皆様ご承知の新首相になった前ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏は就任演説で、EU側との合意がなくても10月31日にEU離脱を実行し、主権を取り戻すと、公言しているだけに、政界も経済界も戦々恐々、その準備だけはしておこうと、大わらわの状態が続いています。

ジョンソン首相は、聴衆を引き付けるジョークを交えて演説は上手ですが、失言癖と、女性関係が少しだらしなさそうで、先日も同居中の女性と痴話喧嘩で隣人がパトカーを呼ぶ事態となり、メデイアの質問には、私は政治家、プライベートのことは政治とは全く関係ないこと、と言ってとにかくメデイアに取り合わないことを貫いています。

それにしても、なぜか人気があります。多分ロンドン市長を2期務め、公用車を拒否して毎朝ヘルメットをかぶり、自転車で自宅から市庁舎に通勤していた姿が度々メデイアに取り上げられ、ロンドンの自動車排気ガスクリーン作戦や、ロンドン五輪を成功に導いた実績が、有言実行型の人間だとの評価で、支持されているのではと思われます。

EU離脱派の主張は主権を取り戻すことであります。特に、外交、経済、貿易、移民等の政策全てEU本部で決められることへの、英国民の不満が募った結果が、EU離脱の選択だったのだろうと思います。

もしものことですが、アジアでEUの様な国家の集合体があり、日本も参加し、その本部が仮に中国の北京にあった場合、日本は外交、経済、金融、貿易、移民等々の政策を、その都度北京の本部に伺いを立て、実際の交渉は本部の担当大臣が相手国と行う、と言うものです。その場合、日本は主権を失い、全て本部任せになると言うことで、そんなことが許せるはずがありません。今の英国がこれと似た様な状況なのです。

だったら最初からEUに参加しなければ良かったではないか?との疑問がわきますが、英国が加盟したのは、現在のEUの前々身EEC(European Economic Community)の時代で1973年ヒース首相の時でした。その時は、まだEUの理念もなく、ソ連崩壊の18年前で、まさか当時のソ連領だった東ヨーロッパの小さな国々が、後のEUに参加するとは、考えも及ばなかったと思います。

その後、EECからEC、そして1993年に今のEUが発足、EUの理念「人・物・サービス・のEU域内の移動の自由」が打ち出されたのです。2004年以降に、EUに加盟した東ヨーロッパの15か国からの、英国への移民が増大し、英国人の仕事を低賃金で奪い始め、これに対して、英国ではルール上、阻止できないことへの不満も、国民投票で離脱を選択した理由の一つだと思います。

なぜ英国になびくのか?それはヨーロッパ唯一の英語圏で、社会保障制度が高度に発達し、医療や出産が無料、教育制度の充実や住居の質の高さ、どんな種類の仕事でも、自国と比較して3~5倍の賃金を得られる英国に自由に行けるとなれば、そこを目指すのは、ごく自然の流れだと思います。

BREXITが起こっても、英国はヨーロッパでドイツに次ぐ大市場なので、関税を掛け合いながら、英国-EU間の貿易は続くはずだし、英国も独自に世界の主要国(例えば、米国や日本等)との外交や貿易交渉は出来るので、多少の混乱は避けられないでしょうが、きっとそのうち落ち着きを取り戻すのでは、と思います。

それと、忘れてはならないのが、英連邦(カナダ、オーストラリア、ニュージランド、インド、南アフリカ等53か国が加盟しており、人口は24億人、地球の総人口の1/3を占め、英語が共通語で、政治、経済、金融、貿易、教育等も英国法を基本とし、英語文化を理解する集合体)の存在です。これは、かっての植民地とのつながりを、ゆるやかに維持する組織で、そのの凄さは、なかなか日本からは見えません。

エリザベス女王がいまだに主要国16か国の元首であり、毎年持ち回りで英連邦首脳会議が開催され、また4年毎に五輪の間にコモンウエールズゲームと言う五輪級のスポーツイベントが、こちらも持ち回りで開催され、英連邦53か国が参加すると言う一大イベントであります。その模様は参加国に衛星中継され、オリンピック並みに盛り上がり、交流を保っているのは驚きです。これらの地域との貿易は、今でも、食糧やエネルギー関連が多いですが、これから他の分野も含めて、増加すると思われます。

さて、英国とEUの離脱交渉で、最も障害となっている「バックストップ」ですが、もともとは、EU加盟国アイルランド(南)の提案で、BREXIT後に英領北アイルランド(北)との国境に国境管理施設(輸出入品の検査やバスポートコントロール)の導入を回避する為の、保険の様なものと言われています。

理論的には、BREXIT後は英国とEUの唯一の陸続き国境となる、EU加盟国アイルランドと英領北アイルランドとの国境に国境管理施設の設置をせねばならないが、陸続きの国境部分だけでも数百Km近くあり、またIrish Seaを挟んで沢山の港があり、具体的にこの部分の国境管理はどうするのか極めて悩ましい現実の問題であり、EU側も理解を示し、最終的な国境管理案が出来るまでに、暫定的な「バックストップ」案に合意しているのです。

この合意は2018年11月にメイ首相とEUの離脱協定交渉の下で、当初は北アイルランドのみが、EUの関税規約に従うことを義務付けられていたが、最終的に英国全土がEUの関税同盟に留まることで、合意されました。

メイ首相がEUと合意して持ち帰った離脱協定に対して、これでは英国はEUのルールに従わねばならず、またEU以外の国々との貿易交渉もできなくなり、BREXITにならないと、議会では多くの議員が反対し、結局議会の承認を得ることが出来なかった訳です。

これに対して、メイ首相は、「バックストップ」もなく、国境管理もなくすには、EUと再び代替案について交渉せねばならないと主張しました。しかし、BREXIT派議員は、ITやAI技術を駆使すれば、国境管理施設を作らずに、輸出入品の検査は可能であると主張しています。

一方、英国やアイルランドの懸念は、EU加盟国のアイルランドと英領北アイルランドの国境に、国境管理施設が復活すると、1960年代後半から1970年前半までの間に起こった北アイルランドの中心都市ベルファーストでの宗教的な対立抗争であった、北アイルランド紛争で3600人もの、市民が犠牲になった悪夢が甦るからであります。

これは、アイルランドと北アイルランドの間は、昔から宗教的にアイルランドはカトリック、北アイルランドはプロテスタントで教義の違いからの対立があり、その根底には、北のプロテスタントはスコットランドやイングランドからの移住者であり、ベルファーストの大半のビジネスを抑え、一方アイルランド寄りのカトリック信者たちは、市の中心部から郊外に追いやられ、貧しいい生活を強いられたことです。

しかし、この問題を更に複雑にしているのが、先の国民投票でスコットランドの住民がEU残留を選択したこと、また2014年のスコットランドの英国からの独立を問う住民投票で、英国残留を選択したことのねじれ現象で、再びスコットランドの英国からの独立機運の高まりに、もしスコットランドが独立したら、英国の国力が10%は縮小すること、それとスコットランドにあるNATOと英国の対ロ戦略軍用基地をどうするのか、英国政府にとっては、気が休まる暇がなさそうです。

BREXITと言う、英国の国運をも左右しかねない、重要な局面の中で、就任したばかりのジョンソン新首相は、「EUと改めて離脱合意を締結する必要があり、そのためにも、バックストップは撤回すべきだ」と話しています。鼻息の荒いジョンソン首相とEU側との離脱交渉はどの様な展開になるのか、見守りたいと思います。(了)

追記

長期的な話ではありますが、国連の人口予測2015年版で、2100年に英国の人口が8,000万人(現在は6,400万人)を上回り、ヨーロッパ最大の国になると予想されています。ちなみにフランスも人口が増えて7,500万人に、ドイツは既に人口が減り始めています。果たして未来の英国はどうなっているのか、知る由もありませんが、発展を期待したいと思います。

 

【解説】 本当に簡単なブレグジット・ガイド

  • 2018年12月10日

英国の欧州連合(EU)離脱について途方に暮れている? 理解するにも、どこから手をつけたらいいか分からない? ……という人のために、本当に簡単なブレグジット解説を用意した。

ブレグジットとは?

ブレグジットとは「ブリティッシュ・エグジット(英国の離脱)」を縮めた単語で、英国のEU離脱決定をめぐる議論で使われる。

EUとは?

EUとは、欧州28カ国が相互貿易や人の移動を簡単にするために作った連合のこと(現加盟国の一覧はこちら)。

英国は1973年、EUの前身のEEC(欧州経済共同体)に加盟した。

なぜ英国はEUを離脱?

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英国は2016年6月23日に国民投票を実施した。質問内容は「英国がEUを離脱するべきか、残留するべきか」だった。

この結果、離脱が52%、残留が48%の票を獲得し、離脱が決定した。しかしすぐに離脱したわけではなく、実際の離脱予定日は2019年3月29日だ。

これまでの展開は?

国民投票は始まりに過ぎなかった。その後、英国とEU加盟国の間で交渉が行われている。

交渉は主に「離脱協定」をめぐるものだった。これは離脱後に何が起こるかではなく、英国がどのようにEUを離脱するかを決めるもの。

離脱協定では何が決まった?

英国とEUは11月、離脱協定の内容で合意に至った。

主な合意内容は以下の通り。

  • 英国がEUとの関係を絶つための清算金について。およそ390億ポンド(約5兆7000億円)とされる
  • 在EU英国民と在英EU市民への影響について
  • 英国・北アイルランドとアイルランドの国境に物理的な管理体制を敷かないための方法

また英国とEUが通商協定を結ぶとともに、企業に調整期間を与えるため、移行期間が設けられた。

もし離脱協定が施行された場合、移行期間中の2019年3月29日~2020年12月31日は英国とEUの関係に大きな変化はない。

 

<関連記事>

離脱協定と共に、英国とEUの将来長期的な関係性についての概要を示した「政治宣言」も合意された。

ただ、この政治宣言は今後の交渉に向けた希望をまとめたもので、英国もEUもこれを固持しなければいけないわけではない。

次はどうなる?

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EU27カ国の首脳が離脱協定と政治宣言を承認した今、テリーザ・メイ英首相は英下院でこの協定を承認してもらう必要がある。

承認の議決は12月11日に予定されている。

協定はEU域内の立法機関、欧州議会の承認も必要だ。欧州議会には、加盟各国から選出された751人の欧州議会議員が参加している。

欧州議会の採決は年明けになる予定。欧州議員らは自国首脳の意向に合わせ、協定を承認するとみられている。

離脱協定は英下院を通過する?

現時点ではもしかすると……その見込みは薄い。

メイ首相が率いる与党・保守党でも他党でも、メイ政権がEUと交渉した離脱協定を批判する声が強い。首相は、承認に必要な票数を獲得していない。

英議会では、この離脱協定では英国がEUから主導権を取り返せていないなど、さまざまな批判が噴出している。

英議会が離脱協定を拒否したら?

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その先は不透明だ。

その場合は基本的に、英国は合意なしでEUを離脱することになる。

しかし英政府は議会に対し、最大21日以内に代替案を提示することができる。

その場合、下院議員たちは新しい政府案に変更を加える権限を有することになる。

となると、合意なしブレグジットや政府による不人気な代替案とは別の展開が、議会主導で実現する可能性もある。

議員たちにとっては、ブレグジットへの別の取り組みを支持する機会にもなる。

いずれにせよ、議会の議決内容を施行するのは政府だ。

2019年3月29日の離脱は絶対?

英国は来年3月29日午後11時(ブリュッセル時間同3月30日午前零時、日本時間同午前8時)にEUを離脱する。メイ内閣はこの離脱日時を昨年、英国法として成立させた。

しかし英議会が離脱協定を拒否した場合、次にどうなるのか断言できない。

2019年3月29日という期限が延長される可能性がある。

EUは、離脱日を延期するには全加盟国28カ国の同意が必要だとしているが、EU法務官のカンポス・サンチェス=ボルドナ氏は先に、英国は他の加盟国の同意なしにブレグジットを取りやめられるとの見解を示している。欧州司法裁判所(ECJ)も10日、法務官の勧告に同意し、英国は一方的にブレグジットを中止してEUに残留できると判断した。

その他の可能性としては、メイ首相が議会承認を得るための機会が、再度与えられるかもしれない。

あるいは、離脱協定を承認するかを問う国民投票を実施するという案も出ている。

合意なしで離脱したらどうなる?

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「合意なし」とは、英国が離脱協定の締結に失敗することを指す。

この場合、2019年3月29日以降に予定されている移行期間はなくなり、この日を境に英国では即日、EU法が適用されなくなる。

政府はすでに、この状況に対する計画を立て始めている

これまでに公表された対策ガイドには、ペットのパスポートから電力供給への影響に至るまで、ありとあらゆる問題への対応が含まれる。

野党第一党・労働党のジェレミー・コービン党首は、合意なしブレグジットは「国家災害」になると述べている。

一方、それほどの大惨事にはならないと主張し、EUから「きっぱり離脱」するよう求める議員たちもいる。

他に知っておくべきことは?

ブレグジット用語解説:バックストップとは?

ブレグジット議論の中で、英国・北アイルランドは大きな注目を集めた。

英国もEUも、北アイルランドとアイルランドの国境に検問所などを作ることは避けたいとしている。

しかし、英国がEUと通商協定を結ばずにEUを離脱した場合、厳格な国境管理をどのように避けるかが問題となる。

そこで、両者はバックストップ(防御策)を設けることで合意した。バックストップは、厳格な国境管理が起きないようにするためのセーフティーネットのようなものだ。

バックストップが発動した場合、英国内で北アイルランドだけが食品などに関するEU法に従うことになる。

北アイルランドの「バックストップ」は最終手段と位置づけられている。メイ首相は、全てが計画通りに行けばバックストップは決して発動しないと主張している。

(英語記事 Brexit: A really simple guide 

アングル:英EU離脱、最大の障害「バックストップ」とは何か

Alastair Macdonald

2 分で読む

[ブリュッセル 29日 ロイター] – メイ英首が欧州連合(EU)からの離脱協定案に英議会の支持を得ようとする中で、もっとも大きな障害となっているのが、アイルランドとの国境問題に関するバックストップ(安全策)だ。

バックストップとは何か、また、なぜこれほど議論を呼ぶのかをした。

 

  • 英国とEUの双方が回避したがる「厳格な国境管理」とは英国とアイルランドは、1998年にベルファスト合意を結び、北アイルランドの帰属を巡って約30年続いた紛争に終止符を打った。

この合意により、英領北アイルランドとアイルランドの約500ロに及ぶ境界線では国境管理が廃止された。また、アイルランド島全域が同じルールや機関により運営されることになり、北アイルランドは英国内でも特殊な位置づけになっている。

英国のEU離脱(ブレグジット)により、国境で検問が導入される可能性がある。また、19日には北アイルランドで新たな反英国組織が車を爆発させる事件が起きており、暴力再燃の懸念が高まっている。

  • 解決策は

メイ首相は、20─44カ月の移行期間中にEUとの間で交渉する特別な税関・通商合意により、英国とEUの全境界で円滑な往来が実現するため、アイルランド国境を通過する物品に対して厳格な検査を行う必要性は生じない、と主張している。

  • それは結構だが、では何が問題なのか

アイルランド政府が、EUの支持を受け、この将来的な通商協議失敗に終わった場合に備えた「保険」を求めていることだ。

  • その保険とは何か

メイ首相が昨年11月にEUと合意した離脱協定案は、厳格な国境管理を回避するのに必要な「代替的な取り決め」が取り交わされるまでの間、英国はEUの関税同盟内にとどまるとしている。

EU側は、北アイルランドのみが関税同盟にとどまるべきだと主張したが、メイ首相や北アイルランドの地域政党で英国帰属を主張する民主統一党(DUP)が、北アイルランドとアイルランドの合併に道を開くものだとしてこれに反対した。DUPは、メイ首相の保守党政権に閣外協力し、議会での多数維持に貢献している。

  • しかし英議員は反対している

多くの議員が、EUのルールや関税率に縛られ、英国独自の貿易協定も結べない状態で、EUの司法機関の監督を受け続けることを嫌っている。

メイ首相は、2021年をめどとした期限をバックストップに設けることをEUに求めている。一部のEU加盟国では、2025年前後に期限を設定することを検討しているが、アイルランドや多くのEU指導者は拒否している。

  • 次に何が起きるか

誰にも分からない。メイ首相が、2週間前の歴史的大差での離脱協定案否決を覆せる兆候はない。EU側は、離脱協定やバックストップ条項については再交渉しないとする一方で、ブレグジット後の通商関係の枠組みを示した政治文書を見直し、例えば英国を関税同盟にとどめることなどを明記してバックストップを回避できる方法を明確にすることなどは考えられるとしている。だがこれは、メイ首相にとって受け入れがたい。

  • 合意が得られなければどうなるか

誰も譲歩しなくても、英国は3月29日にEUから離脱する。アルランドと英国は、過激派の標的にされかねないため、国境管理を実施する計画はないとしている。

だがEUは、合意なしに離脱した場合、一定の厳格な国境管理が要になるとの立場だ。

  • アイルランドは窮地に立たされているのか 

「国境復活なら再びテロも」EU離脱で
北アイルランド紛争の両派の元テロリスト語る

2019.5.8 17:22国際欧州・ロシア

ベルファストでは衝突を避けるため英政府が建てた居住区を隔てる「平和の壁」が続いている。

袋小路に入った英国の欧州連合(EU)離脱交渉では、唯一の地続き国境である英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの国境管理が最大の難題だ。北アイルランドの中心都市ベルファストでは、英国との激しい武力闘争に身を投じたキリスト教カトリック系武装組織の元民兵がテロ再燃を警告。英国統治の維持を求めてきたプロテスタント系も離脱が和平合意に悪影響を及ぼすことに懸念を示した。(ベルファスト 岡部伸)

北アイルランドでは1960年代から英国からの分離独立とアイルランドへの帰属を主張する少数のカトリック系住民と英国残留を求める多数のプロテスタント系住民の武装組織が激しく対立し、30年間で約3500人が犠牲になった。98年のベルファスト合意でようやく終結。武装解除や国境の開放で人や物が自由に往来できるようになり、観光業も急成長した。

しかし、英国がEUとの合意のないまま離脱に進めば、約500キロの南北間で税関検査などの国境管理が必要となり、経済活動にも多大な影響が出る。

「国境は、英国がアイルランドに侵略して勝手に作った。その国境が復活すれば、英国、アイルランドを問わず、攻撃される可能性を排除しない」 カトリック系でアイルランド共和軍(IRA)民兵だったマイケル・カルバートさん(69)は語った。カトリック、プロテスタント両派の闘争が激化した70年代にIRAに身を投じ、英軍兵士数人を殺害して殺人の罪で終身刑判決を受けて16年間投獄された。98年の和平合意以降、「憎しみや敵対する気持ちを捨てて」、服役を終えた元民兵の社会復帰を後押しするNPOで両派の相互理解を進める活動を続けている。

英国のEU離脱はこうした努力に水をさしかねない。カルバートさんは「国境検問を再開すると、草の根から反英の不穏な感情がよみがえる。IRAはまだ残っていることを忘れないでほしい」と指摘。強硬離脱で「南北アイルランド統一の意見が自然にぶり返す」と警告した。実際、カトリック系のシン・フェイン党はアイルランド統一の是非を問う住民投票の実施を英政府に求めている。

一方、多数派のプロテスタント系の元民兵、ポール・ハドソンさん(63)=仮名=は「この20年間で武装解除が進んだ。国境検問が復活しても暴力テロの再燃はないだろう」と穏やかに話した。ハドソンさんは爆弾テロが頻発する70年代、16歳で自警団に入ってIRAとの闘争に身を投じた。殺人や強盗罪で15年間投獄されたが、92年に釈放され、カルバートさんと同じNPO法人で働く。

ベルファストでは両派の衝突を避けるため英政府が建てた居住区を隔てる通称「平和の壁」が現在も50以上残っている。住み分けは続き、昼間は自由に行き来できるが、監視カメラ付きの扉は夜施錠され、一部壁はフェンスを高くした。

英、アイルランド両政府は7日、両派の対立で2年以上も不在状態が続く北アイルランド自治政府の発足を目指して協議を始めたが、英国のEU離脱は両派の微妙な均衡を崩しかねない。北アイルランドのある高官は「EU離脱に関する議論は、北アイルランドが誰のものかという問題を再び揺り起こしてしまった」とため息をついた。

2019年7月29日 / 07:38 / 8日前
アングル:ブレグジット最大の障壁、「バックストップ」とは何か

Reuters Staff

  • [ダブリン 26日 ロイター] – 英国が欧州連合(EU)から秩序ある離脱をできるかどうか、昨年11月に当時のメイ首相がEU側と合意したアイルランド国境管理を巡る「バックストップ(安全策)」条項が、最大の障害となっている。

ジョンソン新首相は就任後、EUと新たな離脱合意を結ぶにはバックストップ条項を撤回する必要があると語っている。

バックストップは、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの間に厳格な国境管理が導入されることを回避するための取り決めで、代替的な管理体制が「見つけるまで」、もしくは「見つからなければ」、英国がEUの関税同盟にとどまるというものだ。

英国の議員の多くは、EUの規則と関税に縛られ続けることになるとしてバックストップに反対。英国は独自に他国と通商協定を結べない上、EU司法機関の監督下から抜け出せないと訴えている。

バックストップの要点と、この問題の論点をまとめた。

<バックストップの狙い>
アイルランド政府はバックストップについて、英国のEU離脱交渉がどう転ぶにせよ、英領北アイルランドとの500キロメートルに及ぶ国境の自由な往来を維持するための「保険」だと説明している。

アイルランドは、国境検査や国境を管理するためのインフラが整備されれば、1998年の北アイルランド和平合意が脅かされかねないため、バックストップは重要な国益だとしている。

英国が北アイルランドを統治し続けることを望む「ユニオニスト」と、アイルランドとの併合を望む「ナショナリスト」の30年間に及ぶ闘争では、3600人以上の死者が出た。国境の開放は、ナショナリストが抱く英統治への怒りを鎮めるのに一役買った。

EUと英国はともに、アイルランド国境に物理的なインフラを設けることは望まないと表明している。また双方とも、バックストップは発効しないのが望ましいとしているが、代替策の合意には至っていない。

<仕組み>

当初のバックストップ案は、英国のEU離脱後、国境を物理的に管理するインフラや国境検査の必要性を取り除くため、北アイルランドがEUの関税規則を厳密に守るよう義務付けるものだった。

メイ前首相がEU側と合意した離脱協定では、バックストップの適用範囲を英国全体に広げた。北アイルランドのユニオニストが、英国との間に事実上の国境が引かれる可能性を避けたいとして要求した結果だ。

現在の離脱合意の文面では、バックストップは「移行期間」が終わる2020年に発動され、EUと英国の単一関税領域が誕生する。環境や労働基準などの面で公平な競争環境を確保する規則などが含まれる。代替策によって同じ状況が「確保されるまで」、もしくは「確保されなければ」、この仕組みが自動的に維持される。

<離脱派はなぜ反対するのか>

EU離脱派はバックストップについて、英国がEUのルールに縛られ続けることや、離脱の重要な利点である第三国との通商合意締結が妨げられる可能性を恐れている。離脱派の議員からは、英国が「隷属国家」になるとの声も出ている。

メイ氏は、バックストップもなく、かつ厳格な国境管理を避けるには、EUと代替合意を結ぶ必要があると主張。離脱派は、最新テクノロジーによって物理的なインフラを設けずに仮想検査を行うことが可能、と訴えている。しかしEUは、未試験の段階であり、移行期間中に検証する必要があるとして拒否した。

英国が恒久的にEUのルール下に置かれるのを避けるため、バックストップに期限や一方的な脱退条項を設ける案も出ている。しかし、ジョンソン首相はこの案をはねつけ、バックストップは完全に撤回すべきだと述べている。

<合意なき離脱>

合意なき離脱となった場合、アイルランドは英国との陸続きの国境を開放したままにしておくわけにはいかない。仮に英国からの輸入品を国境で検査しなければ、アイルランドから他のEU加盟国への輸出について、従来通り無検査で良いかどうか、EUから問題視される可能性がある。

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