「葉っぱはなぜこんな形なのか?」林 将之著、講談社2019年5月刊 2019年7月2日 吉澤有介        

植物の生きる戦略と森の生態系を考える   著者は、山口県生まれの樹木図鑑作家です。千葉大学園芸学部卒業後、出版社勤務を経て2002年に独立、わかりやすい樹木図鑑を出して次々にベストセラーとしました。

図鑑作家となったきっかけは、園芸学部で木の名前を覚えようとしても、木の種類を見分ける図鑑がほとんどなかったことでした。どの図鑑も、樹木を分類ごとに並べて花や果実がアップで出ているだけです。葉っぱしかない木はお手上げでした。著者は、唯一つ見つけた葉っぱでも検索できる「検索入門 樹木」(保育社)を頼りに独学を決意し、大学周辺はもちろん各地の葉っぱを片端から採集して調べ、詳細なフィールドノートをつくって、ほとんどの木を見分けられるようになりました。卒業後も独学を続けた著者はある日、葉っぱをスキャナーで鮮明な画像にすることを発見し、得意のパソコンで樹木検索プランをつくって、出版社に持ち込み、そこで実務知識を学ぶと、つぎつぎにアイデアが浮かんできました。

24歳の誕生日に、樹木検索サイト「このきなんのき」を開設しました。掲示板に木の写真を投稿すると、管理人の著者が、その木の名前を回答するのです。日本初のこの仕組みに、毎日全国から投稿があり、回答には専門家も参加して貴重な輪が広がることになりました。

著者は、画期的な樹木図鑑を創りました。その特徴は、①葉の形態(形・つき方・ギザギザの有無・常緑樹か落葉樹か)で検索できる。②葉のスキャン写真をフル活用する。③専門用語は極力減らし、類似種との見分け方を、わかりやすく解説すること でした。さらに樹形や樹皮の写真も加えて、小学生でも使えるようにしました。これが10万部をこえるベストセラーになったのです。それから図鑑制作の仕事がどんどん舞い込むようになりました。

葉っぱの役割は、光合成をすることですが、その形態は戦略や仕事観を表していました。

・縁がギザギザの葉は、メリハリ型で、働くときはよく働き、休みはしっかりとる。
(コナラ)

・なめらかな葉は、大器晩成型で、コツコツと働き、最終的に上位に立ちます。
(シイ、クスノキ)

・切れ込んだ葉は、協調性があり、トラブルを避けて、世渡りが上手です。
(カエデ、ヤツデ)

・大きな葉は、独立志向が高く、行動は大胆で速い。破産もあるが頂点にも立てる。
(キリ)

・小葉がきれいに並ぶ葉は、効率やスピード重視。器用に仕事をこなす。
(クルミ、フジ、サンショウ)

・針やウロコ状の葉は、特殊の分野で高い能力を発揮。忍耐力が強い。
(マツ、スギ、ヒノキ、モミ、)

葉の形態の機能もさまざまです。ギザギザの葉は、鋸歯の先から体内の余分な水分を、水滴として排出します。常緑樹の硬い葉のトゲは、シカやウサギの食害対策でした。低木ほどトゲが多いのです。なめらかな葉の木の比率(全縁率)は、その土地の気温と関係しています。

(平均気温=0.306×全縁率+1,141)、南に行くほど高いのです。クワのように切れ込みのある葉は、重なり合っても下の葉に光が届いて風を通しやく、フジのように小さい葉が並ぶ羽状複葉では、低コストで成長スピードを上げる戦略です。常緑樹と落葉樹や、大きい葉と小さい葉の意義も、コスト戦略の違いでした。葉の付き方では、光を受けやすい互生が多く、対生はタケの節の構造に似ています。
針葉樹は細く長く生きる戦略でした。樹木はまた動物たちとも絶妙な関係を築いています。樹木から私たちの生き方を学ぶ好著でした。「了」

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