地震予知の難しさ

MIT Technology Review  May 18, 2011MIT
Technology Review  May 18, 2011

Atmosphere AboveJapan Heated Rapidly Before M9 Earthquake

http://www.technologyreview.com/blog/arxiv/26773/?p1=blogshttp://
www.technologyreview.com/blog/arxiv/26773/?p1=blogs

 

地球物理学の領域には地球電磁気学や気象学などと並んで、地震発生のメカニズムや
地震予知などを研究する地震学がある。
地震の発生が日本、南北アメリカ西海岸などの環太平洋地域や地中海沿岸などに多い
ため、地震学では日本と並んでアメリカが先進的立場にある。
しかし予測の裏づけになるデータが得にくいために、社会的、経済的に重要な地震発生
の場所、時期、規模を予測することが難しかった。
しかし近年は地震多発地域に建設された大気モニターステーションや多数の衛星から、
上層大気と電離層の状態を示すデータが得られるようになった。
 MITが発行している技術雑誌 MIT Technology Review に、今回の地震予知に関連した
二つの記事が掲載されたのでまとめて紹介したい。
 

去年1月のハイチ地震 (M7) の前にはデメテル宇宙探査機から超低周波信号が著しく増
えているというデータが送られてきて注目されたが、今回の地震でも
NASA Goddard
Space Flight Centre
や他の少数の観測者から、311日の東北大震災のときのデータが
明らかになってきた。
まだ解析が始まったばかりだが、これらのデータには注目する必要がある。
 このデータは今回のM9の地震発生前から電離層の全電子数が震源地全体にわたって劇
的な増加を示し、地震発生の
3日前に最高値となったことを示している。
また衛星観測でも震源地上空の赤外線放射が大きく増加し、地震の数時間前に温度が最
高になったことを示している。
 

これらのデータは地震の数日前になると異常に大きなストレスがたまり、大量のラドンが放
出される直前の状態になるという
Lithosphere-Atmosphere-Ionosphere Coupling mechanism
という考え方と合致する。このガスの放射能が大規模に空気をイオン化していろいろなドミノ
効果を生む。
水の分子が空気中でイオン化し、それによって大規模な水の凝縮が起き、凝縮の過程で熱
が発生しこの熱が赤外線を放射させる。
 この観測結果について、NASA Goddard Space Flight CentreDimitar Ouzounovはこう
語った。
「最初に異常を観測したのは
38日で、衛星からのデータで赤外線の放射が急速に上昇す
るのが観測された。
この放射が電離層とその全電子数に影響を与えている。」
岩石圏と大気圏と電離層とが影響しあっていて、そのひとつが混乱すると異常が感知される
と考えることは筋が通っている。
問題は今回集まったデータから、この考え方がどこまで説明できるかである。
 

地震の発生前に警報を発し被害を減らすことが地震科学者の究極の目標の一つだが、今で
きるのは長期かそれとも直前の予測だけである。
しかし地震発生のパターンが分ってきて、次の地震の規模や発生の周期などを予測する手が
かりが少しずつできてきた。
 ボストン大学のGene Stanleyらは地震の特徴を個別に研究するのではなく、日本各地で起き
た地震のパターンを比較し、次に地域と似たパターンの地震とをリンクさせたネットワークを作
成して、これを使った新しい予測方法の作成に挑んでいる。
 

森林火災の規模は出火原因には関係なく、木のネットワークで決る。延焼規模は木の間の相
互関係で決り、それは木が育ってきた経歴で決る。
同じようにある地域の将来の地震はそれ以前の地震歴で決る。
ただし理論上説明がつくだけで実際には適用できないが、多くの地震学者が地震のサイズ分
布にこの考えが適用できると考えている。地震発生時に断層ネットワークが関連しあえば地震
の規模は大きくなる。ただこの発想は数日の範囲の地震予測にはほとんど効果がない。
 地震学には過去歴から将来を予測することに長い歴史がある。Stanleyらはいま、過去の時系
列が将来の時系列の予測の判断材料になるかどうかを探っているところである。
この研究方法は絶対的に正しく、過去に大地震が起きたところに住んでいる人には同じ被害を
受ける確率が高い。
しかしこのデータからは地震の規模と時期は分らない。
 

Stanleyらの研究には、時系列的研究にネットワークのアプローチを組み合わせたことに特長が
ある。過去の類似した地震歴を洗い出し、これらの地域には地質的にどんな相互関係がるかを

細かく調査して、断層帯の地質的構造を反映しているネットワークがあることを突き止めた。 地震の歴史にネットワークアプローチを取り入れることが、これまでの時系列の分析方法より予
測方法としてすぐれているかどうかはまだ分らない。
それでもこのアプローチは地震科学でまだ知られていない秘密を解明するうえで効果があると
考えられる。

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