演題:『CO2排出量25%削減と、経済、環境問題について』
講師:元環境大臣、衆議院議員 斉藤鉄夫 氏
日時:2010年9月9日(木) 17:00~18:30
場所:講演会 「東工大百年記念館、フェライトホール」
1. ご挨拶
母校にて多くの先輩方そして若い方々の前で、お話できること、非常に光栄です。
機会を与えてくださったK-BETS、蔵前ベンチャー相談室の方々に感謝したいと思
います。
本日は、これまで環境大臣の仕事をどのような考え方と決意で取り組んできて、
これから地球温暖化対策でどのようなことが大切になっていくのかについてお話し
ます。
初めに自己紹介と、また現在、永田町では東工大の卒業生が3名、政治家として活
躍しておりますので、その辺のことに触れさせていただいてから本題に入ろうと思
います。
2. 学生時代から研究者時代
私の経歴について少し触れておきます。島根県で生まれて広島の高校を出てい
ます。昔から東工大への強烈な憧れを抱いておりました。
昭和45年の入学で応用物理を専攻し実験核物理で、放射線を精密に計測してその
原子核の形を分析するという分野で研究をしていたのです。
私としては立派な修士論文を書けたと思っていまして博士課程に進みたかったの
ですが先生から「やめておけ、君にはその能力が足りない」と言われてしまった
のです。
オイルショックの後で優秀な博士の先輩ですら職につけないような現状がありま
した。
修士課程を修了した後清水建設に拾っていただきました。
物理を出た人間としては異色でした。正直初めは気落ちしていました。しかし仕
事に入ると面白いテーマがゴロゴロしていたのです。
鉄筋の接合という分野に携わることが出来、その研究テーマで論文を書き博士号
を取得することもできました。
今から考えると、あの時就職しておいて良かったと思いました。
私は高校2年のときに創価学会に入会していました。広島の高校に通っていた頃に、
学生運動が盛んでして、学校が封鎖されてずっと授業がないという状況でした。
そのような状況で私も「何のために勉強しているのだ」という問を突きつけられて
悩んだのです。
その答えを求めて宗教に入ったのですね。そういったことがございまして、41歳の
時には広島に戻り、公明党から衆議院議員選挙に出馬する機会を与えられたのです。
ちょうど当時は研究でも思い悩んでいた頃でした。
思い切って政治の世界で科学技術に関わっていこうと決心したのです。
3.政治家になって
非常に恵まれたことに科学技術基本法という法律の制定にすぐに関わることがで
きました。科学技術政務次官としての仕事でした。
公明党が与党になった頃でした。ちょうどJOCの工場で2人の方が被曝するという
ような事故が起きた頃で、絶対安全と言われていた原子力でも事故は起こりうる
ということが明らかになったのです。
原子力災害対策特別措置法の制定のときも、その中心者として関わることができま
した。そうした経験を生かしながら今国会で活躍させていただいております。
先ほども少し述べたとおり現在、東工大出身の国会議員は3名おります。1人は民
主党の藤末君です。
東大の教授などを経験しており、将来を嘱望されている人物です。
もう一人は管総理大臣です。私は年に1度パーティーを開くのですが、菅先輩は
毎年必ず来てくれます。小選挙区制になってからというもの与党野党の壁が大
きくなりましたが、菅先輩はそれを乗り越えて来てくれます。
それから最近感じますのは、東工大の卒業生が霞ヶ関で官僚として活躍すること
が増えてきたことです。いわゆる偉い審議官や次官クラスに東工大出身の方が2、
3人いました。
私がおりました環境省にも東工大出身者がたくさんおりまして、私が大臣のとき
の広報官をしてもらいました。
世の中、官僚バッシングが非常に強くて、優秀な人が官僚にならなくなったとい
われております。天下りは当然なくさねばなりませんが、優秀な人がいろいろな
分野に散らばらないと国益を損なうことは間違いありません。
4.地球温暖化の新しい枠組みの実現へ
今、私が1番恐れておりますのは、この地球温暖化に関して2013年からの枠組
みがないことです。
2020年の中期目標、2050年の長期目標において、どのような世界的枠組みになるか
が、日本が発展していくための成長基盤に大きな影響を与えます。
しかし今世界の枠組みは京都議定書しかありません。
良いシナリオは、アメリカ、中国を含む世界全体の国を巻き込んで努力してい
くことです。それぞれ国によって達成義務の度合いは、違ってよいと思いますが。
中国のように発展途上にある国が先進国と同じ義務を課すのは厳しいことです。
しかし世界全体が1つの義務を負って努力をするという国際枠組みを作っていくべ
きなのです。
最悪のシナリオは京都議定書の延長です。
アメリカ、中国が何の責任義務を負わない。発展途上国が何の法的拘束も受けない
というものです。京都議定書における主要先進国は日本とEUとロシアです。
京都議定書の単純延長ということになりますと、日本だけが日本の技術を世界に移
転するというビジネスチャンスを失います。
何度も言いますが、日本だけが高い義務を負って、排出枠を外国から買うようなこ
とになることは何としてもさけなければなりません。
5.自民党政権の下で
そのような状況にあるわけで、私が環境大臣のときに最も心がけたのは、世界をど
う巻き込んでいくか、京都議定書の単純延長をいかに阻止するかということでした。
そこで重要になるのはやはりアメリカとの連携です。
アメリカと連携しながら中国と連携していく。ポイントはアメリカと日本の強い絆
と信頼関係を築いていくことです。
オバマ大統領が誕生して、前のブッシュ大統領の時代と変わって良い流れになって
きました。EUの根本的に考えていることは金融的なマネーゲームです。
そのEUの考え方を尊重しながら、EUともマネーゲームに陥ってしまわないように連
携します。
そしてロシアは、昔から二酸化炭素を出しっぱなしですから、かなり厳しい目標を
たてても十分それを達成しおつりが出てくるわけです。
それで儲けようとしています。そういうことまで考えながらアメリカと連携してい
くとういことが基本的な方向性でございました。
リーマンショックはありましたけれども、その方向で取り組んでいたわけです。日本の中での目標、日本の排出量をいくらにするかを私どもは麻生政権の下でかなり綿密に議論しました。
麻生さんは地球温暖化の分野においては大変緻密な議論をする、非常に物事がよく
分かっている人でした。
福井委員長の下、中期目標検討委員会において綿密な議論を繰り返しました。
日本の2020年の二酸化炭素排出量について、私はその中で非常に高い目標を主張し
ました。そういう中で経団連の御手洗会長がもっと低い目標を言うものですから
「それでは世界の笑いものになる」
というコメントしたのです。
それがNHKニュースで流れて、問題になりました。それだけオープンな議論をして、
最終的には麻生総理の決断で中期目標90年比で8%減という目標を立てることが
出来たのです。
あの京都議定書でのマイナス6%には海外から買ってくる分も含めたものでした。
しかし、我々が麻生政権の時に立てたマイナス8%というのは、全て日本国内だけで削
減する真水での目標でした。 国内で8%を減らす。実際には、それにプラスをして、例え
ばインドならばインドで最新鋭の火力発電所を建設すれば、大幅にCO2削減に貢献で
きるのです。
今の日本の石炭火力発電の技術を世界に普及すれば、インドに技術を輸出する分だけ
で日本1国分13億トンものCO2を削減できる試算になるのです。
そうした日本の技術を移転した成果の半分を日本の成果にしてもらう。
そうすれば日本の技術の発展にもつながる。日本の排出枠を満足させることにもなる。
一石何鳥にもなるわけです。
新しい国際的枠組みを作って、日本の国際貢献分を8%の上に足し算する。
私は、環境大臣時代8%にそれをプラスして25%の削減が可能であると申し上げました。
6.鳩山政権に替わって
それに対して今の政府の案の25%とういうのは、鳩山さんがまさしくトップダ
ウンで、突然言い出したものです。
我々が緻密な議論を繰り返したときのものとは明らかに違います。
この25%のうちどれだけを真水分でどれだけを国際貢献分とするのかは、今でも
明らかになってないのです。そのような中で温暖化対策基本法を制定しようとし
ているのです。
私もこの議論の先頭に立ちました。その中で明らかになったことですが、小沢環
境大臣、鳩山首相は25%全体を真水で減らすつもりであったらしいのです。
しかし、突き詰めると逃げるのです。
25%全体を国内で減らそうとしても1つ1つの技術の積み重ねで実現するしかあ
りません。どうやったって25%は不可能です。そこに出てくるのは生産制限です。
7.新しい枠組みに必要なこと
そして、最初の話題に戻りますけれども、アメリカと中国が入る新しい国際枠組
みを作るだけでは、日本の技術が生きるということになってきません。
これは自動車会社や色々なメーカーの方に言われたのですが、例えばコマツの建
設機械の二酸化炭素排出量は、本当に半分以下になりました。
日立建機もやってますが、このような機械を例えばアフリカに輸出して、その機
械が海外で削減した分を、日本の排出削減分としていくらかカウントできるよう
な仕組みをぜひ作ってほしいのです。
そうすれば世界全体が、EUがやろうとしているマネーゲームで排出権を取引する
ような形にならなくて済むのです。
経団連もその方向で頑張ってくださっているわけですけれども、そういう努力を
この1年間あまり政府はしてこなかった。
このようにしてアメリカ、中国を巻き込んだ新しい枠組みを作ることが肝心です。
何しろ、アメリカと中国で世界の半分、4分の1ずつの二酸化炭素を両国で排出し
ているわけですから。
日本は世界全体の中でたったの4%。25分の1です。この1年間で日米の信頼関係は
崩れ去ってしまいましたが、アメリカと中国が入らない国際枠組みなんて意味が
ないといってよいかと思います。
8.菅政権に対して
今日こちらに来させていただく前に官邸に、緊急経済対策の申し入れを、野党5
党の政調会長で提言しに行ったのです。受けたのが仙石官房長官でした。
今の政府の、現在の日本の経済状態についての危機意識が足りないと。
オバマ大統領は29兆円の経済対策を打っています。このまま行くといよいよまた
円高が進むのではないのではないか。
円高が進めば本当に日本の経済が大変なことになります。
そこでの悪い点としましては、まだまだ危機意識がないこと。一方、良い点は、
仙石さんがこう言いました。
「これまでいわゆる事業サイドの側に立ってきた。個人の懐にお金を入れれば経
済が良くなると考えてきたのだが、そろそろ供給側、サプライサイドに目を向け
ていきたい」と。
ある意味で民主党政権が気づくのが遅いのですが、そこにちゃんと気づいていた
だいて、サプライサイドにも目を向けないと、日本の持っている技術力を生かす
ことはできないのです。
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セミナーは181名におよぶ参加者を得て大盛況でした。
会場からはみ出した人用に扉を開いて臨時席を設けるほどでした。
講演後の質疑応答にも多数の質問があいついで司会者を困らせていました。
講演終了後、懇親会を学生食堂で実施し、89名の方が出席しました。
斉藤さんは食事が一切取れないほど皆さんとの交流に時間をとられていました。