英国の運河事情 2014年7月9日  荒川英敏

  ロンドン便り その43

ロンドンから車や列車で地方に向かう時、田園風景の中に突然、様々なボートやボートの係留地が現れ、こんな所になぜ?と一瞬目を疑いたくなる光景に出くわします。これは18世紀半ばの産業革命前後に当時の土木技術の粋を集めて建設され、張り巡らされた全長約4,000マイル(約6,400Km)にも及ぶ運河(英語ではCanal 又は Waterway)を航行しているボートなのです。大半はレジャー用のナローボート(全長17m、幅2.1m)ですが小型クルーザーも見かけます。

英国の国土は平坦地が多いので、運河建設の土木工事は簡単な様に思えますが、場所によっては数10100m以上の高低差や、谷があったりと一筋縄には行かなかった様です。その為、ロックと言われる運河の水の流出や水位を調節する閘門を要所要所に造り、また丘陵地にはトンネルを掘ったり、谷間や幹線道路をまたぐ為の、水路橋も建設されました。

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     ナローボートとロック(閘門)     ロンドンのボート系留地の賑わい

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ナローボートと教会のある風景       16のロックが連なる運河

 圧巻の世界遺産ポルトカサステ水路橋
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1805
年に完成、高さ38m 長さ307m 3.4mWebより)


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世界遺産ポルトカサステ水路橋を年間10,000隻のナローボート通過

ロンドンから主要都市にボートでの移動が可能なイングランド地域の
運河ネットワーク
が世界遺産ポルトカサステ水路橋の所在地 

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運阿の歴史は以外に古く、英国がローマに支配されていた三世紀頃までさかのぼり、当初は灌漑のために主に使用されていました。そして水路による内陸輸送を可能にする、川にリンクしたいくつかの短めの運河が建設されました。

18世紀に興った産業革命によって、産業用物資輸送需要の増加に伴い運河ネットワークは飛躍的に拡大しました。当時の道路を使っての大量の産業用物資の輸送には不向きでした。最初の頃の運河での輸送は、ナローボートを馬が運河の土手から牽引する方法が取られていましたが、その後、蒸気船の出現、さらにデイーゼル船の登場でナローボートを何隻かを連結牽引するシステムが導入され、例えば、原材料(特に石炭や木材)や工業製品、陶器などの壊れ易い製品を、運河沿いの工場から大量に輸送することができる様になりました。ナローボートでの輸送は陸上輸送に比べて速く、安全に大容量を運ぶことが実証され運河の成功につながったのです。特に、内陸の産業の中心都市マンチェスターと港湾都市リバプールを結んだマンチェスター運河は、全長180mの大型船舶も航行でき、マンチェスターでは、石炭の輸送コストを75%減少したと言われていました。 

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   なんとものどかな運河のある田園風景 (Web    

しかし、19世紀半ばから、鉄道網の急速な発達により、大量の物資がより高速に運ばれ、輸送コストも安くなりました。この為、運河でのナローボートを使っての輸送は激減し、運河ネットワークも縮小の一途をたどり、多くの運河が遺棄されて行ったのです。

その後、1944年にレジャーのための運河利用の可能性を見抜いた、旅行作家クレッシーの、その著書「ナローボートの旅」が出版され人気を博し、これがきっかけとなり、1947年に英国水路庁はInland Waterway Association(財)水路協会)の設立を許可し、遺棄された運河の復興をバックアップしました。徐々に使用可能運河網が拡大して行きました。
さらに、ナローボートのレンタル会社も設立され、1950年代後半から、レジャーでの運河の使用が増加して行ったのです。

特に、レンタルナローボートによて、誰にでも週末旅行や23週間のホリデープランが、手頃な価格で実現できる様になったのです。例えば、ロンドンから運河でイングランドの主要都市や運河沿いの町や村々への旅行が可能になっています。運河の要所には、ボートヤードと呼ばれる係留地やボートの修理や整備場、ガソリンスタンド、食料品や日用品のショップ、駐車場も整備されています。運河を利用しての休日は、航行速度が人が早足で歩く程度なので、リラックスして自然を楽しめ、ナローボートにはキッチン、ダイニング、トイレ、シャワー、寝室が完備されており、自炊しながらのんびりと英国各地を旅行できることが人気となっており、特に、夏季のホリデーシーズンはナローボートの予約がなかなか取れないと言われています。

1980年代になり、都市の運河沿いのかっての工場や倉庫施設をアパートやオッフィスビルへの転換が行われ、ウオーターフロントとして再開発されています。特に、ロンドンではテムズ川沿いの、かってのロンドンドックの倉庫群のアパートへの再開発は若い世代に、人気が高まっています。上流のウインザーやタプロー地域のテムズ川に面した富裕層向け住宅では、庭から直接ボートに乗れる係留設備が多く見られます。

今日では水路協会は16,000名の会員を要し、ナローボートはレンタルも含めて25,000隻が登録されています。水路協会は以下のミッションを明確に示しています:-

・運河をレガシーとして次世代への継承

・現行運河の保守と遺棄された運河の修復

 会員による週末や休暇を利用しての保守や修復作業への参加促進

・運河マップの発行

・運河利用者の声の代弁

 ロンドンバーミンガム間の高速鉄道建設の運河を避けるルート選定への助言

・運河沿い施設の整備(釣り場や散歩コース等)

・運河や運河沿いに生息する生物の保全

・運河に隣接する1500箇所の自然観察サイトの保全

・運河の幅による制限航行速度の遵守の監視

 幅の狭い運河は時速4マイル(6.4km)、広い運河は時速6マイル(9.7km

産業革命以来の運河と言うレガシーは、英国の田園風景の貴重な一部であり、忙しい現代人に癒しの時間を提供できる素晴らしい空間でもあります。日本にも、この様に誰にでも手の届く価格で、家族全員が2~3週間のゆったりとしたホリデーが楽しめる空間があると良いと思うのですが、なにせ、日本は流れの速い河川や起伏の激しい地形ですので、出来る訳がないですね。(了)

 

      

         

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