「芦ヶ久保からの二子山」    2013年5月25日 吉澤有介        

  西武線小さな山旅(その11

 ことしの5月は気温が大きく変動しましたが、この週末、願ってもない爽やかな朝を迎えたので、久しぶりに芦ヶ久保の二子山に出かけてみました。

 この二子山は、以前に(小さな山旅その4)で、兵の沢を沢登りの入門コースとして紹介したことがありますが、山登りのお付き合いのほうが先でした。もう30年あまりになります。山容が立派で自然林が美しく、標高も883mで手ごろなこと、、駅からすぐ山道に入るのに深山の趣があること、山道にいやな階段が全くないことなどで、ほぼ毎年のように訪ねてきた、私のお気に入りの山の一つです。

 いつものように出足は遅く、芦ヶ久保から歩きはじめたのは11時でした。兵の沢の丸木橋を渡って心地よい山道を辿ります。沢沿いにはタニウツギが白い花を一杯につけていました。山の神の巨木を過ぎてしばらくゆくと水場があり、豊かな自然林が展開します。土曜日なのに人影は全くありません。高尾山や奥多摩とはたいへんな違いです。

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  芦ヶ久保駅と二子山の全容(再掲)         兵の沢の源頭

 (右に深く切れこんでいるのが兵の沢)

 このところ晴天が続いたので、兵の沢は水量がふだんの半分くらいでしょうか。やがて水音が消えて伏流になりました。このまま詰めてゆけば頂上直下の尾根道に出るはずです。いつもその誘惑にかられるのですが、この先なにがあるかもわかりません。下藪は少ないようですが、秩父特有のチャート岩に突き当たりそうです。自然林の美しさは格別でも、高齢者の単独行は禁物なのです。しかし若い人なら、道のないここはたぶん記録もないので、動物的感覚を頼りに原始人の気分を味わう、絶好なフィールドになることでしょう。 私もかって東北の山でよくやったことでした。

 柔らかい登山道は沢筋を離れ、次第に高度を上げてゆきます。やがて山頂に続く尾根に出ると、向う側の東面はスギの植林、北側のこちらは自然林と明暗が極端になるのです。 こんな素晴らしい山なのに、その東面を尾根までスギを植えてしまったとは、全く惜しいことをしたものです。ここから頂上までは広葉樹林の中の100mほどの急登で、ロープと木の根を頼りに一汗かくと雌岳の頂上です。残念ながら木立で眺望はありません。

 さらに50mほどの岩を一たん下ってまた急登すると、目指す883mの雄岳に着きました。ただ、ここにもまたスギの植林が展開しています。こんな頂上から一体どのようにして集材するつもりだったのでしょう。拡大造林のバカらしさには全くあきれるばかりです。

 しかも登山者向けお説教の新しい看板がありましたが、一番肝心な道標がありません。スギの林には踏みあとがやたらに多いので、この日も迷いかけていた何組かのパーテーをガイドしてあげることになりました。地元観光協会のピンボケもいいところです。

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    武川岳(左奥)と焼山(手前)          秩父の武甲山

 しかし頂上南端にある露岩(ここもわかりにくい)からの秩父武甲山は圧巻でした。またその左手に展開する南への尾根は、焼山から武川岳1052mへと続く雄大な眺めです。ここ奥武蔵の代表的な健脚向き縦走路と言ってよいでしょう。その東端がおなじみの名栗の青少年の家ですが、山陰でここからは見えません。一般には名栗の名郷から武川岳に登り、二子山を経て芦ヶ久保が順路で、フルに一日行程になります。私も20年ほど前に歩きましたが、やはりかなりの強行軍でした。

 ところがこの露岩で出会った、おしとやかな中年?の女性二人組には驚きました。なんと今朝早く、正丸駅から伊豆が岳851mを越えて山伏峠に下り、さらに武川岳に登り返してここ二子山まで縦走してきたというのです。いわば三つの山をハシゴしてきたというから凄い。登降差を累積したら1700 mは超えるでしょう。優に二日行程に当たります。この冬の大雪の日にも来たそうですから、これは半端ではありません。山女恐るべし。拙宅のお隣の新座市から来たというのでつい話がはずみましたが、一緒に下るつもりだったその足の速いこと、あっという間に見えなくなってしまいました。それでも駅のホームで再会できて、162分発の池袋ゆき直通電車で楽しく同席、これはまた84歳を迎えたばかりの老生にとっては大当たりの一日でした。「了」

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