ロンドン便り その22
「カーペットと言えばイギリス、イギリスと言えばカーペット」と呼ばれるくらいにイギリスでは住宅にカーペットが普及しています。その普及のすごさはWall to wallと言われる様にまさに壁から壁へびっしりと敷き詰められています。例えば玄関から入るといきなりカーペットが始まり階段、居間、寝室、風呂場、トイレまで、つまり台所以外の全ての床にカーペットが敷かれています。ここで言うカーペットとは一枚の敷物(ラグ)ではなく約5m~6m幅のカーペットロール(巻物状)で、専門業者が持ち込み床の形状に応じて敷き詰めて行くので継ぎ目のない一枚ものでその床が仕上がるわけです。それでも床面積が広くて一つのロールでカバーできない時は他のロールで繋ぐわけですが、継ぎ目がまったく判らない様にするのがカーペット職人の技の見せ所の様です。
最近、不動産屋の売りや賃貸の物件の詳細を見ると、一階の居間やダイニングエリアでは天然木や合板のフローリング、二階の寝室ではカーペット床が見られます。不動産屋の話では、比較的若い世代の層がフローリングを好むが、中・高年層は相変わらず全ての床にカーペットを敷くのが支持されており、その理由は何と言ってもカーペットの持つその特質だそうです。カーペットを敷き詰める時に床板の上に麻とゴムで構成される下地を先に敷き詰め、その上にカーペットを敷くため保温性、吸音性、転んでも怪我をしない安全性を確保し、更にホコリやチリの捕捉性もありなかなかの優れものとのことでした。
床も階段も隙間なくカーペット トイレも風呂場もカーペットがある
日本でもある一時期、カーペットが普及して日本文化の象徴の一つでもあった畳を凌駕した時代がありました。しかし、カーペットはゴミやチリが溜まりやすく、かつダニの生息に適しているのでダニの死骸やフンが舞い上がり喘息をはじめとする呼吸器の病を患うと言うことで、今日ではすっかりフローリングに置き換わってしまった様ですね。
カーペットがそんなに不衛生なのでしょうか。しかし住宅の中にはカーペット以外でもベットやベットカバー、敷布団や掛け布団、家具の裏側や家具と壁との隙間等々ダニが好きそうな場所が沢山あり、適当な温度や湿度が保たれていればダニは生息しているはずです。しかもペットを飼っている家ではペットに纏わるノミ、シラミ、ペットダニと心配が絶えません。これらのことから、住宅の中を全てフローリングにしたからと言って家の中から全てのダニを駆逐することはほとんど不可能に近いことです。
日本の超一流と呼ばれている高級ホテルでは部屋はもちろんロビーもレストランも厚い立派なカーペットが敷き詰められています。しかし、これらの高級ホテルのカーペットがダニやダニの死骸がいっぱいで極めて不潔な状態を放置しているとは考えられません。
カーペットはいつも隅々まで業務用の強力な掃除機によってホコリやチリ,ダニ等全て吸い取られ清潔に保たれているはずです。
日本にカーペットがなじまなかったもう一つの原因に家庭用のカーペット専用掃除機が普及しなかったことではないかと思います。ご承知の様に日本では写真①の様な業界で言うキャニスタ型(Canister-小型容器)と呼びれている掃除機がほとんどで、一般的にはクリーナーと呼ばれていますね。
原理はモーターに取付けらえている高速回転(20~40Krpm)のファンで真空に近い状態を作り出し、接続されているホースの先端に発生する強力な吸引力でゴミ、ホコリ、チリ、ダニ等を吸い込む訳でVacuum Cleaner(真空掃除機)と言われる所以です。
イギリスでは写真②の様なカーペット専用掃除機で業界ではアップライト型(Upright-縦型)と呼ばれているのもが普及しています。これは構造上重たいモーターの真下にある吸引口に回転ブラシと回転ビータ(叩き棒)を組み込み吸引力とのコンビネーションで、まずカーペットを吸い上げ、回転ビータでカーペットを叩き、回転ブラシでゴミを掃き寄せ吸い込ませるものです。この一連の動作で踏まれて倒された毛足は元に戻りキャニスタ型では吸い込みきれない毛足の長いカーペットでもきれいに仕上がるわけです。週に2~3回このカーペット専用掃除機で掃除する為、常にカーペットは清潔に保たれていることになります。
さらに、半年とか一年に一度洗濯機に使われる洗剤と同じ成分のカーペット専用洗剤を使った写真③のカーペット洗浄機でカーペットを洗います。このカーペット洗浄機の原理は前進する時に回転ブラシでカーペットをならし洗剤液を散布し、後退する時に回転ブラシでカーペットを洗い汚れた洗剤液は専用吸い口で吸い上げられ空気と分離され専用タンクに溜められます。カーペットの汚れ具合に応じて前進・後進の動作を繰り返してカーペットを洗い上げます。これによってカーペットは新品同様になります。
①日本の代表的な掃除機 ②イギリスの代表的な家庭用
(キャニスター型) カーペット専用掃除機
この様にイギリスではカーペットの普及が始まったビクトリア時代からその特質を理解しその手入れまで含めたカーペットケアが出来るからこそMade in UKのカーペットが今日でも多くの住宅で使われているのです。日本も夏は涼しく、冬は暖かく保湿性も兼ね備えた特質を持つ畳と言う素晴らしい文化を持っていながら、いとも簡単に手放してしまいました。もう一度原点に戻り、イ草の栽培から畳表の製造のプロセスは環境に優しいことを認識し、昔ながらの畳職人の見事な技が継承され畳文化の復活を期待したいものです。(了)