秋の戸隠古道ハイキング 2012年10月16日  吉澤有介  

   この夏の猛暑で、各地の紅葉もかなり遅れているようです。信州あたりでも見頃は11月に入ってからと聞いてはいましたが、連日の秋晴れでつい待ちきれず、いつものT観光のご近所出発日帰りバスツアーに飛び入りで参加しました。

 行く先は信州戸隠古道のハイキングです。古道といえば誰でもまず思い浮かぶのは熊野古道でしょう。しかしいかにも遠すぎる。戸隠なら手頃のパワースポットで、うまくゆけば紅葉も始まっているかも知れません。37人とほぼ満員の大型バスは、圧倒的なおばちゃん勢で占められ、男性陣は最後部席でちいさくなるといういつもの構図です。

 上信高速道で妙義山を抜けると軽井沢で浅間山が間近ですが、久しぶりの信州もまだ初秋の気配でした。バスは長野を過ぎてそのまま北上し、やがて妙高がくっきり見える県境の信濃町インターから戸隠に向かいます。長野からよりこちらのほうが早いのですね。端麗な黒姫山と飯綱山の間を行くのです。ここから始まる戸隠高原は、どこまでも見事な広葉樹林が続いて驚くばかりです。戸隠には昭和の終わり頃に、近所のグループでスキーに来ましたが、これほどの深い樹林帯とは気がつきませんでした。まるで印象が違います。

 やがて奥社の入口に到着して、古道のハイキングがスタートしました。奥社に向かう広い参道は、意外にも空を覆うほどの豊かな広葉樹の森でした。およそ古道のイメージではありません。1キロほど進んで、ようやく古い茅葺きの随神門が現れました。そこから初めて樹齢400年を超える杉並木になるのです。

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       奥社の随神門             奥社のスギ並木

   ここはかって東日本JRの「大人の休日」の広報誌に、吉永小百合が歩いた写真が話題になりました。まさしく古道だったのです。しかしいまそこに彼女がいるわけでもないので、ここで本殿を遥拝してすぐ左の遊歩道に入りました。するともはや聖地としての神仏の影はほとんどありません。原生林と称してよいほどの素晴らしい広葉樹の自然林の歩道です。戸隠神社に守られて、人の手が一切入っていないのです。すぐ近くにあるはずの戸隠連峰は、深い森に阻まれてその姿は全く見えません。バスのお仲間ともいつの間にか離れて、ほとんど人に会うこともない平坦な遊歩道の快適な森林浴がどこまでも続きます。

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          原生林の姿              翁の石像に会う
 一時間ほどで鏡池に着きました。ここで突然のように初めて戸隠がその全容を現すのです。標高1904mの戸隠山から最高峰の西岳2053mと続く、その岩峰が静かな水面を前景にして屏風のように展開する見事な眺めでした。紅葉にはすこし早すぎましたが、風もなくあまりにも良く晴れて雲ひとつありません。ちょうどお弁当タイムです。まさに至福のひと時でした。先ほどバスで来た自動車道がすぐ近くを通っていて駐車場があるので、幾分にぎやかになりました。どんぐりハウスという休憩所もあります。クルマでくる皆さんは、ここがお目当てなのですね。古道というより第一級の明るい観光スポットでした。

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        鏡池より西岳             小鳥ケ池からの戸隠山

   車道に分かれると、さらに自然林の遊歩道が続きますが、これまでとすこし違って適度のアップダウンのある楽しい山道になりました。途中で広葉樹から明るいカラマツの林に移ります。まだ黄金色になるには間がありそうでしたが、いかにも信州らしい趣きです。すぐ目の前の樹の枝にヤマガラがとまりました。ここは名高い野鳥の天国なのです。まもなくその名も小鳥ケ池に出ました。静まり返った水面に戸隠山が映って、一幅の絵になっています。深い森のこちらの池には観光客も来ないので人の気配がなく、この上ない贅沢な時間を持つことができました。もう終点の中社までは1キロもありません。思いもかけなかった快適な森林浴もそろそろおしまいです。 今朝の奥社はスキップしたので、中社にはしっかりとお参りしました。樹齢700年のスギにはさすがに歴史を実感します。天の岩戸の神話が伝わっているので、天孫族の大和王朝に繋がりがあるのでしょう。境内に続く由緒ありそうな宿坊で念願の戸隠そばを頂いて、超満足な一日が終わりました。バスはここで待っていてくれたのです。 戸隠古道は、その名とイメージが全く違いました。奥の岩山には暗く厳しい修験者の道があるのでしょうが、今回歩いた9kmのハイキングコースではお天気にも恵まれて、快い森林浴と静かな池からの眺めをたっぷりと味わうことができました。美しい日本がここにあったのです。「了」

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