西武線の小さな山旅シリーズ(2)
今年の気象の異常さはただ事ではないようです。しかしその中でも木々は着
実に芽吹いてきました。
僅かの晴れ間を捉えて、高麗の日和田山を歩いてきたのでその様子をお知ら
せしましょう。ここは外武蔵丘陵の最南端にあたり、日高市のシンボルとし
て多くの人たちに親しまれている小さな山です。
西武秩父線で飯能から二つ目の駅の高麗(こま)は、古代の帰化人が開いた
とされる高麗郷の玄関口で、巾着田の彼岸花が有名ですから、皆さんも良く
ご存じのことでしょう。
その高麗駅のホームから北の正面にある小高い山が日和田山です。
しかしここは小さい山とはいいながら、実
はこのあたりで一番の自然林の豊かな、本当に素晴らしい山なのです。
一般のガイドブックでは、ここから先の尾根伝いのハイキングコースの一部としか書かれていませんが、どうしてどうしてこの山だけで一日いても飽きない、本格的な山歩きが味わえるバリエーションルートがたくさんあることは、あまり知られていません。
私はシーズンごとに、また大きな山行きの前のトレーニングにここに通うことにしています。
高麗駅の飯能寄りの踏切を渡って直進すると、そこには江戸時代にキリシ
タン禁制のお触れを書いた高札が、そのまま保存されていました。ここから
右折して里山の風景を楽しみながら鹿台橋で入間川を渡ります。
一般ルートはそのまま高麗神社に向かう道から山道に入りますが、その山道
は最近あまりにも整備されて、まるで市内の公園のようになってしまいまし
た。そのため私は専ら入間川沿いの日向の集落からのルートにしています。
入間川はこの日まだ桜がきれいでしたが、嬉しいことに対岸の崖の梢にカワ
セミがいました。
双眼鏡でしばらく楽しんだあと、名残を惜しみながら山道に入りました。
ここからはチャートの小路になりますが、途中から右折すると深い自然林に包
まれます。
山道はふかふかして柔らかく、しだいに高度をあげてゆくと見晴らしの丘で一
般ルートに合流し、眼下に麓の高麗の里が広がります。
そこから快い岩登りになるところが楽しいのですね。
堅い岩肌の感触を確かめながら、一気に登りきって岩峰の上に出ると、そこか
らの眺めは見事で、巾着田の菜の花畑に、新武蔵丘ゴルフコースが手に取るよ
うに見えました。
ここには金毘羅神社が祭られています。一般ルートでは神社の右手から尾
根道を行きますが、私のおすすめは左手から行く自然林の道です。あたり一
帯は一斉に芽吹いた春の香りに満ち溢れていました。山桜にミツバツツジが
鮮やかです。この道はそのまま尾根のハイキングコースに続いていますが、
右上にひと登りすると305mの日和田山頂上に着きます。
登り始めて約1時間あまり、はじめ晴れていた空もすこし雲が出てきまし
た。それでも南の方はるかに新宿の高層ビル群が見えます。
双眼鏡で覗いてみると、何と建設中のスカイツリーもありました。
写真には写りませんでしたが、これは思わぬ収穫です。
頂上に他の登山者は一人だけ、彼女に双眼鏡を貸してあげたら、わぁす
ごいと歓声をあげました。
こんな素晴らしい山なのに本当に静かで、期待した以上の贅沢な気分を満喫
して帰途につきました。
下りはいつものチャートの小路を目指します。
ミツバツツジがだんだん多くなって目を楽しませてくれました。
あたりは全く深山の気配で、ここが里山の一角だとはとても思えません。
やがて谷筋のスギ林に下りますが、ここで日和田山のハイライトのチャート
の大岩に着きます。突然現れた30mほどのこの大岩は、もっとも都心に近い
絶好の岩登りのゲレンデとして、いつも多くの愛好者に親しまれているので
す。この日も10人ほどのグループがやっていました。
しかもその半数は若い女性だったのは驚きです。
こちらも昔のクライマーですから、見ていてつい自分も登っている気分に
なっていますなおこの山は深いわりにごく小さいので、どのルートにいて
も、大きな声をあげれば良く聞こえます。
仮に何かあってもこのグループに声が届くので、だれでも安心して歩ける
でしょう。
しばらく見物したあと、皆さんどうぞ気をつけてと声をかけて、そのまま
先ほどの登り口に戻って帰ってきました。下りはゆっくり歩いたのに40分
くらいでした。
日和田山は初めに駅から見たように、そのほとんどが広葉樹の自然林
です。とくにこの日に歩いた西側のバリエーションルートは豊かな自然に
満ちています。
ごく小さな山ですが、半日の山歩きとして皆さんもお出かけになってみて
はいかがでしょうか。
「了」