芦ヶ久保の丸山  2012年5月16日 吉澤有介      

  西武線の小さな山旅(その10

前日の雨がウソのように晴れたのに、いつものテニスコートがお休みだったので、思い立ってまた西武線の山旅に出かけてみました。今回の狙いは芦ヶ久保の丸山(980m)です。名前が平凡なのでかなりソンをしていますが、芦ヶ久保を巡る山では最高峰で、眺望が良いことと、埼玉県民の森があることで人気があります。

例によって出足が遅れて、芦ヶ久保に着いたのはもう11時を回っていました。ガイドブックでは正面の尾根道がルートですが、日差しが強いので逆コースの大野峠から登ることにしました。ここは古くからのスギ林で、沢もあるので涼しいはずとみたからです。

駅から右手に1kmほど299号の車道を歩きますが、沿道の民家はどこも花いっぱいで飽きません。姥神で車道を離れて静かな山道に入ります。ここで嬉しい風景に出会いました。民家の壁にマキが積んであったのです。里山はこうでなくてはなりません。

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  民家の壁に積まれたマキ        横瀬の里山風景

いくつか沢を渡って、いよいよスギ林の急な登りにかかります。ここの人工林は歴史が古いらしく、直径が1m近い巨木から、30cmくらいの若いスギまで程よく混在していました。間伐はやや遅れているものの、かなり健康的な感じです。1時間あまりで大野峠のグリーンラインの車道に出てみると、ここはK-システム集材の、まさに理想的な地形でした。一帯は平均20度くらいの一様な斜面ですから、稜線を行く車道からチェーンを200mも伸ばせば、かなりの広範囲にわたって間伐材の引き上げが容易にできることでしょう。
  車道を越えると、自然林になって小高いピークに出ます。ここは芝生の山頂で、小川町や越生にかけての大展望が開け、パラグライダーの絶好の発進地なのだそうです。

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   大野峠道のスギ林           稜線からの展望

ここからいよいよ丸山に続く関東ふれあいの道となります。まばゆいばかりの新緑の自然林が1kmほど続く、今回の山旅のハイライトなのです。そこに突然人声がして、20人ばかりの高齢者のグループが現れました。某電気メーカー社友会という旗を掲げて賑やかなこと、まさにふれあいの道です。しかしそれもほんの一瞬で、また静かな新緑にむせながらゆるやかな登りを続けるうちに、やがて丸山(標高980m)の頂きに着きました。

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      関東ふれあいの道           丸山から秩父武甲山
  しかしこの丸山の頂には、まるで無粋な2階建てコンクリートの展望台があるのです。なるべく視野に入れないように背を向けて、柔らかな芝生に腰を下ろしました。展望台などに上がらなくても、木々の間から武甲山が真近かに望めます。足元には可憐なスミレや黄色いヘビイチゴが一面に咲き乱れていました。やはり自然のままが最高なのです。ここでも先客は一人だけ、時刻はもう15時になろうとしていますが、日が長くなった今は何も急ぐことはありません。郷里の笹団子をお八つにして大満足のひと時でした。

  この丸山の北東斜面一帯は、コナラやクリやカエデなどの広葉樹の林で、「埼玉県民の森」というピクニックゾーンになっています。先ほどのグリーンラインの車道がここまで入って駐車場もあり、遊歩道が巡っていますが、もうここは山屋の来るところではないようです。立ち寄らずに芦ヶ久保に下ることにしました。

 十数十年前までのこのコースは、豊かな自然林のなかの例えようもないほどの素敵な山道でした。それが昭和60年ころ、全国植樹祭によって無残にも徹底的に破壊されたのです。

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      全国植樹祭の現場          二子山はいつも美しい

その後がどうしても気になっていました。来て見ると想像以上にひどい死の森です。

私は偶然その植樹祭の直後にここを歩きましたが、かっての美林が跡形もなく伐採されて、ひ弱なヒノキの苗が一面に植えられていたのに驚いたものです。そこには堂々と「昭和〇〇年全国植樹祭記念」と書いた白い標識が立っていました。その標識を探してみたのですが、今は密生した暗いヒノキ林のどこにも見当たりません。きっと誰かが隠したのでしょう。ただ公社の管理となっている旨の小さな看板だけが寂しく残っていました。

  そこで一案です。どこかの記者にこれまでの全国植樹祭のその後の経過をフォローしてもらったら、それはもう衝撃的なルポになるに違いありません。さらにここも県民の森に指定したら、反面教師として大きな学習効果が上がることでしょう。最近になってようやく植樹祭は広葉樹を植えることにはなりましたが、本当に反省しているのでしょうか。

延々と続く死んだような暗いヒノキの森をようやく抜けて、明るい芦ヶ久保の村までたどり着くと、私の最もお気に入りの二子山が、一そう鮮やかな新緑の全容を見せて出迎えてくれました。

                         了 

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