イギリスのPV-Tメーカー Romag社を訪問 2012年4月14日 荒川英敏

ロンドン便り その12      イギリスのPV-T(太陽光発電+熱回収給湯)メーカーRomag社を訪問

 3月にロンドンの新しい展示場Excelで行われた建築技術展Ecobuild 2012の会場でイギリスの特殊ガラスメーカーで、唯一のPV-TメーカーのRomag社のMurrays社長にお会いしたのがきっかけで、昨日、北イングランドのカウンテイ・ダラム州のコンセットにあるRomag社を訪問する機会がありましたので紹介致します。

 ミーテイングは413日の10:00だったので、当日ロンドン発の朝一番の列車でダラム経由でコンセット行きを考えましたが、これでは間に合わず、やむなく前日に車で行くことにしました。ロンドンからコンセットまで約500km、ほぼ東京大阪の距離なので、正午にロンドンを発ち、途中サービスエリアでの3度の休息を入れて宿泊地のダラムのホテルに到着したのは18時過ぎで6時間かかりました。

 翌日、朝10時コンセットのRomag社に到着、受付で要件を告げ会議室に案内され、出された紅茶を飲みながら待つこと5分、Romag社のMurray社長、技術開発を担当している関連会社のNorthern Technology Development社のLaidler取締役、販売会社のNewform Energy社のMorgan社長と面談、早速、日本の震災復興や原発事故のこと、先のEcobuildショーのことや日本とUKPV市場の動向等の情報交換の後、PV-T開発経緯と今後のプラン等について話を伺うことが出来ました。

 この後、Romag社のNesbitt工場長の案内でPVの生産ラインを見学しました。見た感じでは日本製のファクトリオートメーション設備がほとんどで、生産現場は人も少なく効率良く生産されている感じでした。工場長の話では、自分は北イングランドの日産自動車のサンダーランド工場の設立から参画した品質管理の専門家で、日本にも度々滞在し、日本的品質管理手法 ”KAIZEN ” を学び、体の隅々までその手法が染み込んでるので、我社の製品の品質は日本製と変わらないと言うことでした。

 PV-Tの生産は今年の11月からを予定しており、現在はまだ実用試験の段階で、実際の販売は来春になるだろうとのことでした。理由として、PVFIT(固定価格買取制度)の対象になるがT(熱供給)に対して家庭向けのRHI(再生可能熱インセンティブ)の適用の発表が今秋になると予想されているので、これが確定次第に、全てのスケジュールが決定されるとのことでした。
 また、Murrary社長は、イギリスは現在、PV(太陽光発電)は政府のFITのおかげで市場は拡大の一途をたどっているが、Suntechに代表される中国メーカーがプライスリーダーとなりの市場価格が下落している。これは消費者にとっては好ましい状況でRomag社の様な現地メーカーはコストダウンに苦慮し、近い将来PVだけの機能では中国メーカーに席捲されると思われるとのことでした。

 従って、Romag社はPVに付加価値を付けるため、PVの欠点である太陽光が強くなると、太陽電池(Cell)自身の発熱による発電効率の低下の特性を逆手に取って、Cellの背後からこの熱を回収し、Cellの発電効率を回復させ、回収した熱で給湯需要をまかなう一石二鳥の発想であるPV-Tを開発し、市場での差別化を図って行くと話していました。

 PV-Tの技術的な問題として、PVからの熱回収は空気か液体で行うが、それぞれ一長一短があり、Romag社は液体で行うことを選択しています。理由として熱回収の効率が良くまた将来的にはPCM(パラフィン等の相変換材料)との組み合わせで貯湯量を大幅に増やすことが可能で、一方でシステムが複雑になりコストがアップするが、貯湯量増はアプリケーションの幅を広げるのでそれだけ有利だと考えている様です。

 さて、日本のシャープ、京セラ、三菱、ソーラーフロンテイア、カネカ等PVメーカーはこれから急成長が見込まれる日本のPV市場はもとより世界のPV市場で、中国のSuntechをはじめとする後発のPVメーカーとの熾烈な価格戦争に参戦せざるを得ず、PV-T開発にリソースを振り向けることができるかどうか大変気になるところです。

 Romag社は長年にわたって培ってきた、商業建築や鉄道車両向けの特殊ガラスの製造技術を持っており、この技術で特殊ガラスにCellを組み込んだBIPVPVを組み込んだ商業建築向け建築材料)を製造しており、最近のオリンピック施設やロンドンのキングスクロス駅大改修に採用され着実に実績を伸ばし、PV-Tと共に大いに期待が持てそうです。

 いずれにしても、PV-TBIPVは日本市場ではまだ未開発であり、PV-Tは工務店ルートやハウスメーカーに対して、BIPVはゼネコン、設計事務所、設備設計事務所やデベロッパーに対してのPR活動をしながらマーケットリサーチを進める必要があると思われます。

 また、Murray社長も来春にUK市場で発売予定のPV-Tで日本市場へ進出するにはどの様プロセスで行うのがベストなのか、スタデイしたいと話しています。この場合、K-Betsそのネットワークでどの様に係わられるか、皆さんと議論出来ればと思っています。

 今回の訪問で感じたのは、かって科学技術のトップに君臨し世界の工場とまで言われたイギリスの20世紀になってから今日までの製造業の凋落の中、Romag社の様な小粒ながらしっかとした技術の裏付けを持ち、40代と思われる若い経営者によって果敢に挑戦している様を拝見すると、物造りのDNAはこれから大化けに向かって活性化するのではないかと思えてなりませんでした。

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  Romag社の工場の一部と見学の案内をしていただいたNesbitt取締役工場長

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  防護メガネに安全ジャケットを身に付け、いざ工場見学へ!

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無人で稼働中の日本製のダストフリー型自動PVパネル圧着機

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PVの最終組立エリア

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