埼玉県の森林見学記

 K-BETS林業研究会では、かねてから国内林業再生をテーマに取り上げ、工学的な見地から集材コストの低減・間伐材のバイオマス利用などの具体策を検討してきました。今年度からは埼玉県某市に独自の林業再生モデル事業をご提案し、市当局との意見交換を通じてお互いに積極的な検討を続けています。
某市の林業は古くから知られた有力な産地でしたが、昭和40年前後に行われた拡大造林の後の木材自由化によって国内の木材価格が急落し、林業本来の経営が全く成り立たなくなってしまいました。そのために広大な人工林の手入れが遅れて、国土保全のためにも大きな問題となっています。

これは全国の林業地共通の悩みですが、市ではいち早く森林文化についての宣言を行い、林業再生と豊かな自然をめざしてその具体策を探っていました。平成17年度から「直営の林務作業員制度」を発足させ、現在5人の専門家を養成して機械化林業の導入を進めているそうです。まさに大きな動きが始まったのです。

このような流れのなかで、林業研究会では、このたび市の特別のご厚意により、11月27日に森林における施業のための作業道の開設現場と、その周辺の間伐状況を見学させて頂くことができました。
当日は時折小雨の混じる曇り空でしたが、山に入るには差し支えはありません。まず朝の8時に4人のメンバーでお伺いし、林務をご担当のお二人に市内の保安林と森林の概況をお聞きしました。林道も各地に開かれていますが、ほとんどが県の管理なのだそうです。
市ではその林道から作業道を伸ばして間伐や集材などの施業を進めています。その現場を見るため、2台の車でまず最初の森林に向いました。ゲートを越えて進んだこの一帯は海抜は約1000mくらいです。あらたに開設した作業道に入るとそこは見事な杉林でした。樹齢は60年を超えているのでしょうか。胸高直径60cmはザラで樹高も25m以上はあるでしょう。きちんと枝打ちもしてあり、間伐も進んで下草も根づいていました。まさに健康的な正常林です。
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よく見ると上の尾根のあたりは30°程の急斜面ですが、豊かな広葉樹林が美しく紅葉していました。その落ち葉の栄養分がこの杉林を育んでいたのです。林業に携わってきた人たちの長年にわたる深い知恵と努力の成果を見る思いでした。

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ここの作業道は約4m幅で、斜度はほぼ10%のチャート崩れの礫混じりのしっかりした道でした。これならタイヤのトラックが楽に使えます。こちらのメンバーには軍用トラック開発の第一人者を始めとして、建築土木様々な製造業の現場を経験した管理技術の専門家が揃っていたので、農林課の実務家お二人も交えて集材システムについての新しいアイデアが続々と出てきました。全輪駆動の4輪車のフル活用も含めて総合的なシステムを構築することで、さらにこの奥にある杉林の間伐・集材への応用が楽しみになりそうです。
一行はここから戻って付近にあるカヌー工房に立ち寄りました。間伐材を6mm厚の短冊状の細い板に加工して、手作りでカヌーに組み立ててゆくのです。設計と製作の指導は工房マスターのYさんで、お客が自分の好みに合わせたカヌーを自分で製作するシステムになっています。これこそ間伐材に最高の付加価値をつけた好例でしょう。首都圏からの高齢者に人気が高いそうです。また不登校の子供を預かって再起させたこともあるとのことで、それだけモノづくりの楽しさが味わえる場所になっています。皆さんもぜひお訪ねになってはいかがでしょう。このあたりの湖に映える紅葉の美しさはまた格別でした。
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午後には二番目の森林で新しく作られつつある作業道を見学しました。ここは国道に近い森林で、関東ローム層の杉林ですが、現地の材料をうまく活用した低コストの作業道につくられています。新しい大橋式作業道の良いところも取り入れてありました。現場の皆さんの素早い実行力に敬服した次第です。

これも全輪駆動の4輪車を軸とした機械化集材システムと併せて活用してゆけば、きっと大きな成果が期待できることでしょう。

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このあとさらにお二人に、これから施業を予定されている別の森林にご案内して頂きました。ここは市街から2kmほど東にある杉林です。ゴルフ場のすぐ裏手で、穏やかな山林ですが、手入れがかなり遅れたままになっています。これから効率的な間伐を進めてゆけば、きっと地域を代表する立派な杉が育つことでしょう。地形を見ても高密度の作業道が比較的容易に開設できそうです。バイオマス活用の実験にも最適の場所と見受けました。

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駅からもごく近いところですから、将来的には広葉樹との混交林にして、作業道をそのまま高齢者も安全に楽しめる遊歩道にしてゆけば、市のあたらしい観光スポットにもなることでしょう。林業再生のモデル地区としてまさに打ってつけのフィールドです。ぜひ皆さんの力を結集して、真にのお役に立つ具体案をご提案してゆきたいものです。
このたびはTさんFさんには、ご多用中のご案内まことにありがとうございました。とりわけお二人の実務経験に基づいた貴重なお話には、大きなヒントが山のように含まれていました。あらためて心からお礼を申し上げます。

(吉澤)

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