秋たけなわの10月31日、一般公開された秩父東大演習林を見学してきました。たまたまうちの近くの旅行社のツアーで、昨年秋にも同じ千葉東大演習林ツアーに参加して味を占めたためです。今回の場所は秩父の最奥の栃本でしたので、通常のバスでは入れず、18人乗りのマイクロバス2台で出か
けました。お天気は幸い時折薄日もさす見学日和でしたが、底冷えのする山の寒さに震えるほどでした。参加者はみなご近所の高齢者で過半数が山好きのおばあちゃんたちです。
ここの演習林は1915年(大正5年)に、温帯地域の研究のために民有林約6000haを購入して発足しました。まさに荒川源流にあり、標高域は530~1,980mにわたります。ほぼ山手線内側に相当する総面積のうち、天然林が32%、広葉樹主体の二次林が54%、人工林が13%になっているそうです。
今回公開されたのは入川沿いの旧軌道あとの林道の往復約8kmで、荒川源流標識までのハイキングでした。甲武信岳に連なる十文字峠への登山道にもなっています。地形が急峻なV字谷で、落石の危険があるため、全員がヘルメットを着用して入りました。
この軌道は昭和10年ころから40年ころまで、入川沿いの天然林伐採と搬出に使われました。樹齢30年未満の若木を残して伐採したので、現在見られるのはその後の二次林です。それでも深い渓谷沿いに、二抱えもあるシオジ、サワグルミ,、リョウブ、ミズナラ、各種カエデ、ブナなど、まだ紅葉にはすこし早かったものの、見事な広葉樹林が私たちを迎えてくれました。
それにありがたいことに演習林のベテランサポーターが、当日は特別に4人もガイドとして一緒に歩いて頂いたのです。木々の名前はもとより、演習林の歴史までいろいろと教わることができました。
なにしろこの渓谷沿いの岩盤は中世層から古生層にわたるチャートがむき出しで、それが風化して激しく崩落しているのです。その岩肌に根が食い込んだようにして広葉樹が生育していました。自然の回復力の強さには感動のほかはありません。
なぜこのような厳しい地域の広葉樹を伐採搬出したのかをサポーターに聞いてみると、同じ太さでも年輪が細かくて硬いために、市場の評価が特に高かったのだそうです。
そういえば同じ軌道沿いの山側の急斜面の一部にスギの植林があって、昭和4年の植栽と表示がありました。ちょうど私と同年齢です。それがまだようやく20cm径くらいの太さしかありませんでした。生育が極端に遅いのです。これでは100年たっても建材に利用はできないでしょう。
ただもっと斜面の上では傾斜もやや緩やかで、人工林が育っているとのことでした。
また森林作業用のモノレールがありました。50mm角くらいのレールで5人乗りの車両が走るそうです。エンジンは5馬力くらいの小型ですが、なんと43度までの勾配を上下するといいます。この日は乗せてもらえなくで残念でした。
入川から山側に入った林道沿いの人工林ではこの日に伐採の施業実習が行われているとのことで、一般の見学はできませんでしたが、サポーターの話ではどうもあまり機械化はしていない様子でした。集材合理化はまだテーマになっていないのでしょう。これは昨年に見学した千葉演習林でも同じでした。せっかくの演習林ですから、率先して集材コストダウンの問題解決に挑戦してほしいものです。
美しい入川渓谷の向かい側もすばらしい広葉樹の山でした。まったくの原生林に見えましたが、サポーターのお話ではかって炭焼きが入ったことがあるとのことでした。きっと二次林なのでしょう。とにかくこんな山奥まで入り込んだ日本民族の勤勉なことは驚くばかりです。それにしても自然の回復力は凄いですね。
いま問題になっている荒廃した人工林を、豊かな自然林に戻すことは充分可能なのです。
林業研の皆さん、大きな希望を持って林業再建と環境保全の二兎を追いましょう。大きな収穫のあった一日でした。
以上
2008.11.01 吉澤有介 記